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6,試み

「やれそうか、ムルシェ」

『うん、やってみる』


 俺達は今、大海の真ん中に浮かぶ無人島にいる。


 ロボット化したムルシェのコックピット内。

 目前に映るのは、覚醒まで20分を切った『鋼の繭』。


『送信、開始』


 繭に触れ、ムルシェが『作業』を開始する。


 この繭の中にいる鬼の排除。

 それともう1つ、俺とムルシェには指示が下っている。


 この繭の中の鬼に対し、『人間の言語データ』を送信する事、だ。


 これは、クラコからの提案。『鬼との対話』のための作業だ。


 クラコは言っていた。

 半世紀前、人間に味方した鬼がいた、と。

 その鬼達は、何故同じ鬼である仲間を、止めるのでは無く封印したのか。


 少し考えればわかる。

 止められなかったのだ。

 鬼同士の対話でも、人間への攻撃を止めさせる事はできなかった。

 だから、無理矢理封印する形を取ったのだろう。


 鬼が頑なに人間と敵対し続けた、その理由は何なのか。

 それを、調べる。

 そのための対話だ。

 もし、これにより鬼が人間を襲う理由が判明し、それが対処可能な事であるとすれば、鬼と戦う必要すら無くなるかも知れない。

 何気に俺達は今、歴史が動きかねない作業を行っているのだ。


 ……まぁ、クラコが言うには「とても望み薄」だそうだが。

 それもそうだろう。

 鬼が人間を襲う理由が対処可能な物ならば、半世紀前に人間側に付いた鬼達が対処法を教えてくれているはずだ。

 鬼と未だ戦い続ける現状などありえちゃいないはずなのだ。


 それでも、まぁ奇跡を信じて対話してみる訳だ。

 せっかく鬼との対話を実現できる、ムルシェという存在がいるのだから。


「どうだ?」

『うん、受信されてる感触がある。イケそう』


 ムルシェは生まれたてであるため、鬼の言語はわからない。

 だから、鬼側に人間の言語データを送り、まずは言葉を通じる様にする。

 繭の内部から情報を得るのは難しいが、幸いこちらから一方的に情報を送信する事は出来る様なので、今まさにトライ中、という訳だ。

 人間の言語に加え、「こちらに交戦の意思は無く、話を聞きたいと思っている」という旨のメッセージも同時に送信してもらう。


『調子はどう?』


 通信が入る。

 先日の忍者娘、サヤカの声だ。


 今回は、サヤカと俺がこの鬼を対処する事になっている。


 サヤカが乗っている機士は今、ムルシェの後方で片膝を着く形で待機中。


 全身が黄色い装甲で覆われた、ムルシェより少し小さいくらいの人型兵器。

 そのシルエットは全体的に異常なまでに細い。軽装、なんてモンじゃない。骨組みでは無いかと疑ってしまう程だ。

 そしてその背面にはアゲハ蝶の様な鮮やかな模様の機械の翼。

 何やら、その翼の下部から綺麗な虹色の謎粒子が吹き出しているのがやや気になるが……


 あれが、マリアポッサ。

 アギラヴァーラが空戦特化と言われるのに対し、あの機体は攪乱戦特化。

 敵に物理的なダメージを与える術こそ少ないが、『特殊武装』で攪乱し、隙を作らせて付け込むのが主な戦闘スタイルだという。


 そのスタイル上、C級以上の鬼が出た際に僚機のサポーターとして出撃する事が多いそうだ。


「イケそうだってよ」

『無駄だと思うけどねー』


 まぁ、サヤカは俺なんぞよりも長い期間、鬼と戦って来たんだ。

 俺だって、「界獣と対話する」とか言ってる奴を見たら、何を馬鹿な事を……と呆れかえるだろう。

 理由なんて無くてただ人間を襲っている、とかだったらまさに無駄な対話になる訳だし。


『サイファー。送信、終わったよ』

「よし。じゃあ覚醒まで待機だな」




『いやー。にしても本当にすごいねームルシェちゃん。変身するとは聞いてたけど、実際見るまで半信半疑だったもん』

『サイファー! 私すごいって!』

「ああ、まぁすごいけどさ……」

『そういえばムルシェちゃんって甘い物より塩味効いてる方が好きなんだよね。もしかして御欠おかき揚げとか好き?』

『おかきあげ?』

『うーん、説明難しいんだけど……煎餅を油で揚げた感じ』

『おいしそう!』


 キャッキャキャッキャと女子2人だけが盛り上がるコックピット内。

 ……ああ、戦闘になるかも知れない2分前とはとても思えない。


「お……」


 不意に、繭に亀裂が走る。


『あらら、お目覚めね』


 この前のカエル鬼のは異常だったが、覚醒時間が数分前後するのはよくある事だとクラコは言っていた。


「さて……どうなる事やら……」


 繭を破って現れたのは、黄緑基調の色彩鮮やかな装甲に覆われた、鳥型の鬼。

 サイズは20メートル弱か。

 人型要素は欠片も無い。腕は無く、体型も完全に鳥のそれ。配色的にもオウムに近いだろうか。

 目はクラコの様にぎょろりと大きく見開かれている。

 頭部には、オウムには似つかわしく無い3本の剛角。


 オウム型の鬼は、その大きな瞳で俺達を捉える。


 そして、


「……バイラヴァノエサドモガ……」

「え?」


 人間の言語データは送った。

 つまり、今のは人間の言葉で発せられた物、なのだろうか。

 機械的な無機質な声と発音の不慣れ感のせいで、良く聞き取れなかった。


『今、なんて言ったか聞こえた?』

「ば、ばいらばぬさどぅむが……とか何とか……そっちは?」

『サヤにもさっぱりでーす』


 何てやり取りをしていると、オウム型の鬼が勢い良くその両翼を広げた。


「キサマラトカタリアウコトナド、ナァイッ!」

『なんとなくだけど、今のは『貴様らと語り合う事など無い』って言った様に聞こえたよ?」

「奇遇だな……俺もだよ!」


 オウム鬼の羽ばたきと共に、攻撃が飛んでくる。


 羽だ。

 オウムが振るった翼から、鉄塊の様な羽がミサイルの如く放たれた。


「問答無用ってか……ムルシェ!」

『うん!』


 ムルシェに指示を送り、そのマントを盾として前面に広げ、硬質化させる。

 羽のミサイルは、全てマントに遮られ、砕け落ちた。


『便利だね、そのマント』


 よいしょっ、という声。

 後方で、マリアポッサが飛翔した。

 その軌跡を追って、虹色の粉雪の様な粒子が散っていく。


『お話は無理っぽい雰囲気だし、さっさと片付けよっか』

「だな……」


 言語が通じても話が通じないかも知れない。

 まぁ予測されていた事だ。

 その場合は、速やかに本来の業務に従事するだけ。


 ムルシェに蝙蝠チックな黒翼を展開させ、飛ぶ。


「オトナシククチクサレロ……!」

「聞き取り辛いんだよ、オウム野郎」

『滑舌悪いね』


 滑舌というか抑揚アクセントの問題な気もするが。

 まぁとにかく戦意がある事だけは伝わった。


『んじゃ、サイファー。マリアの力、見せてあげる』


 そう言って、粒子を撒き散らしながらマリアポッサが前へと出る。


「お、おい? マリアポッサってサポートメインの機体なんじゃ……」

『あれくらいならやれるって』


 あらよっと! というサヤカの掛け声と共に、マリアポッサの翼の一部がシャッターの様な形で開く。

 そこから現れたのは、巨大な魚の目を思わせる黒と白のレンズ。


『さぁ、目にもの見るとイイよ。『五重の蝶舞(クインテット・ダンス)』!』


 そのレンズから、一瞬だけ光が放たれる。

 その光量の余り、思わず瞬きをしてしまった、その直後。


「!」


 一瞬の内に、マリアポッサ5体に分身していた。


「分身!?」

『すごい!』

『ふっふっふ! マリアの光を見たら最後! マリアの分身達に翻弄されるのみなのよ!』

「すげぇな……」


 計器で見ても、5体に差は見られない。というより、計器がまともに働いていない様だ。

 本物と偽物の判別ができない。

 流石は攪乱戦特化と呼ばれる機体だ。


『ま、大気中のマリアの『鱗粉』を利用して分身を作ってるから、ある程度『鱗粉』を撒いておかなきゃ使えないんだけどね』


 成程、待機中の時から謎粒子をバラ撒いていたのは下準備だった訳か。


『さ、いっくよー!』


 5体のマリアポッサは、その手にダガーを握り、様々な角度からオウム鬼へと襲いかかる。


「グギ……」


 オウム鬼は緊急飛翔し、それを躱す。

 しかしマリアポッサ達をすかさずそれを追う。


「ムシケラガ!」


 オウム鬼の口から放たれるレーザー砲撃。

 当然の如くそれをヒラリと躱し、マリアポッサ達が舞う。


 全員が歪な軌道を描き、オウム鬼の意識をかき乱す。


 そして、一瞬の死角を突き、3機のマリアポッサがそれぞれ別方向から急接近。

 1機の攻撃は躱されたものの、2本のダガーがその黄緑の装甲を抉る。

 まぁ内1本は鱗粉に映写された虚像なのでダメージは無いが。


「グゥアッ……! コノ……!」

『まずは1閃!』


 反撃される前にマリアポッサ達は離脱し、オウム鬼から距離を取る。


 分身で翻弄・攪乱し、ヒット&アウェイでじわじわとダメージを蓄積させていく。

 成程、確かにその虹色の鱗粉を舞い散らす美しい様と裏腹に、えげつない。


「あれ、俺達いなくても勝てるんじゃねぇの……」

『でも時間かかりそうだよ?』


 何か俺、完全に傍観者に成り下がっている気がする。


『じゃんじゃんいっくよー』

「ナメクサルナヨ……バイラヴァノエサドモガ!」


 事態の変化は、まさしく急転直下だった。


 オウム鬼が、吠える。

 その直後。


 オウム鬼の全身から、ついさっき見た覚えのある光が放たれた。


『これって、マリアの……!』


 目を開けば、そこに待っていたのは……


『は、ははは……うっそーん……』


 5体の、オウム鬼。


「キサマラノリュウギニアワセテナノルナラバ……『鸚鵡返シ(ロロ・コントラータ)』トイッタトコロカ」


 5体のオウム鬼が、空を切り裂きマリアポッサへ迫る。

 それも、たった1機だけを狙って。


『ちょ、ちょちょちょっとぉ! そんなの有りぃ!?』

「ヤバそうだ! 行くぞムルシェ!」

『うん!』


 どうやら、あのオウム鬼、マリアポッサの本体を見抜いている様だ。

 おそらく、本物のダガーに付着した自身の血から何らかの目印でも得ているのだろう。


 静観決め込んでる場合じゃない。


 マリアポッサとオウム鬼の間に入り、マントを展開。

 無数のマントの刃で、オウム鬼を狙うが……


「っ……!」


 ダメだ。早い。当たらない。

 全ての刃を1体に集中させれば当てられるだろうが、どれが本物でどれが分身か区別が付かない。


「『鸚鵡返シ(ロロ・コントラータ)』!」

「!」


 オウム鬼達の翼から、無数の黄緑色の刃が伸びる。


「おいおい!」


 ムルシェのマントまで真似された。


「サヤカ!」

『言われなくても全力で避けるって!』


 どれが本物の刃か区別が付かない以上、全て避けるしかあるまい。


「クッソ……! どれが本物かさえわかりゃ……」


 ふと、脳裏をよぎる何か。


「!」


 ムルシェに刻んでもらった、ムルシェの機能の記憶だ。


「……流石は蝙蝠型だ!」

『えへへ、それほどでも』


 刃の追跡を振り払うべく、俺はムルシェを全速力で飛翔させる。


『あ、ずるい! 1人だけ逃げる気!?』

「ちょっと頑張ってろ!」


 オウム鬼達は、急速離脱した俺達を「逃げ出した」と判断したのだろう。

 さっさと狙いをサヤカの方へと切り替える。

 ……後で怒られそうだが、勝つためだ、許せ。


 という訳で、遥か眼下の無人島全域へ向け、『それ』を放つ。


「やれ、ムルシェ!」

『うん! 反響定位装置エコーロケーション起動!』


 ムルシェの全身から放たれる、音の波。

 人の耳には聞こえない程の高周波だ。


 その音波は周辺のあらゆる物質に反響し、ムルシェの元へと返ってくる。


『サイファー! あれ! あの真ん中の奴、1体だけ音が違う!』

「了解!」


 ムルシェが指示した鬼を目指し、ムルシェを急降下させる。


「ギッ!」


 俺が本体を察知した事に気付いたのだろう。

 オウム鬼本体が翼の刃を伸ばし、俺を迎撃する。


「ムルシェ!」

『うん!』


 マントの刃で迎え撃つ。


『いたっ!』

「大丈夫か!?」

『私強いから平気だもん!』


 数発、かすってしまったが、それだけだ。

 ムルシェの硬い漆黒の装甲には、傷など付いちゃいない。痛みはあった様だが。


 迎撃を抜け、俺達はオウム鬼の懐へと飛び込む。


『仕返し!』


 ムルシェの爪が、紅蓮に染まる。

 その爪で、オウム鬼の胸部を、貫く。


「ギュエ…ッ…」

『ネイル・ヴァイブレイト!』


 トドメと言わんばかりに、オウム鬼の体内、ムルシェの爪を中心に爆発が起きる。

 正確には、ムルシェが爪から超膨大な量の超音波が放ち、その超速振動で内部機官を破壊したのだろう。


「……その爪、そんな機能あったのかよ……」

『あれ、刻み忘れてた?』


 どうやらその様だ。


 まぁ何はともあれ、お仕事終了だ。





「お疲れ様です。今回も大活躍だったそうですね、ムルシェちゃん」

「うん!」


 例の音速ジェットで本部に俺達を出迎えてくれたのは、何か紙袋を持ったクラコ。


「対話の方はダメだったけどな」

「残念ですが、まぁ予想通りです。特に気に病む事は無いでしょう」


 クラコ的には「聞けたらいいな」的な事だったらしく、そこまで執着は無い様だ。


「ところで、その紙袋なんだよ」

「っ!」


 大きさや形的に、雑誌の様だが。


「こ、ここここれはですね、う、あ、あはははは! お疲れ様です!」

「?」


 何か焦りまくって去っていくクラコ。


「人の趣味はそれぞれ、ってねぇ」


 訳知り顔でニヤけるサヤカだが、さっぱり何の事だかわからない。


「あれは団内の書店員さんとサヤだけが知る秘密なのですよ……んじゃ、お疲れさまー」

「お、おう」

「サイファー、私サヤカが言ってたおかき揚げっていうの食べたい!」

「俺もそれ知らないんだけど……」


 この世界にしかないお菓子類なのだろう。

 とりあえず、あとでコンビニコーナーに行ってみるか。


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