夢と現実と 1
ぱらり、と紙をめくる音が微かに聞こえてくる。
また少し、間が空いてから同じように音が聞こえる。
私はまた、母様の部屋で眠ってしまったのだろうか?
母様の傍にいるとつい、気が抜けてしまう。
あの独特な雰囲気というかのか、まるで太陽のように温かい、緊張をゆっくりと解いていくような、あの温かさが私は好きだ。
自分の部屋にいても、とても休んだ気になれない。
誰かが常に見ているような、そんな気がして。実際、そうなのかもしれない。
五番目といっても国の王子として、それなりに国民に知られている。
ただの道具だとしても、殺されれば不味いことに変わりは無いのだから。
それならいっそのこと監視していたほうが安全なのだろう。
そう考えると、あの部屋に居るだけで気が滅入ってしまいそうになる。
いつ‘私’ではなく‘僕’が出てしまっていたらと思うと、気を抜くことすら出来ない。
唯一、一人でいられる時間だというのに……。
そうだ、あの時も一人でいたんだ。
夕焼けが差し込んで、部屋の中を真っ赤に染めていたんだ。
あかい、赤い、紅い、血のような色に。
襲ってきたんだ、笑いながら。
私を見て、哂って、嗤って、わらって。
近づいてきていたんだ。
鈍く光る、鋭い、刃物を持って。
それで、逃げた。
怖くて、恐くて、こわかった。
ぐるぐると、あの時の光景が映し出される。
やめて、やめて、もう嫌だよ。
助けて、誰でも、いいんだ。
だれか、たすけて。
ふと、ぱたん。と本を閉じる音がした。
まどろむ意識の中、ゆっくりと頭を撫でられた。
まるで、壊れやすい大切なものを扱うかのように、それでいて慈しむように、ゆっくりと慎重に。
もっと強くしても大丈夫なのに。それでも、その優しさが嬉しくて。
あぁ、やはり母様の部屋に来ていたんだ。
起きている時は恥ずかしさが勝ってしまい、頭を撫でる優しい手から逃げてしまう。
その様子に母様は、微笑みながら手を離してしまう。
本当は、もっと撫でてもらいたいのに。
母様の手はまるで、頑張ったね、えらいね、と褒めるように私に触れる。
私の本音を伝えられればいいのに、そうは思っていても伝えることが出来ない。
もし、私が年相応の子どもであったのなら。
そんなことを考えたって、今は変わりはしない。
せめて、このときだけは、温かく優しい手に撫でられていよう。
夢なのか、はたまた現実なのか、あやふやなこのときだけは。
それがもう、叶わない願いだと知っていても。
この幸せな感覚に浸っていよう。