表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

夢と現実と 1

ぱらり、と紙をめくる音が微かに聞こえてくる。

また少し、間が空いてから同じように音が聞こえる。

私はまた、母様の部屋で眠ってしまったのだろうか?

母様の傍にいるとつい、気が抜けてしまう。

あの独特な雰囲気というかのか、まるで太陽のように温かい、緊張をゆっくりと解いていくような、あの温かさが私は好きだ。

自分の部屋にいても、とても休んだ気になれない。

誰かが常に見ているような、そんな気がして。実際、そうなのかもしれない。

五番目といっても国の王子として、それなりに国民に知られている。

ただの道具だとしても、殺されれば不味いことに変わりは無いのだから。

それならいっそのこと監視していたほうが安全なのだろう。

そう考えると、あの部屋に居るだけで気が滅入ってしまいそうになる。

いつ‘私’ではなく‘僕’が出てしまっていたらと思うと、気を抜くことすら出来ない。

唯一、一人でいられる時間だというのに……。


そうだ、あの時も一人でいたんだ。

夕焼けが差し込んで、部屋の中を真っ赤に染めていたんだ。

あかい、赤い、紅い、血のような色に。

襲ってきたんだ、笑いながら。

私を見て、哂って、嗤って、わらって。

近づいてきていたんだ。

鈍く光る、鋭い、刃物を持って。

それで、逃げた。

怖くて、恐くて、こわかった。

ぐるぐると、あの時の光景が映し出される。

やめて、やめて、もう嫌だよ。

助けて、誰でも、いいんだ。



だれか、たすけて。



ふと、ぱたん。と本を閉じる音がした。

まどろむ意識の中、ゆっくりと頭を撫でられた。

まるで、壊れやすい大切なものを扱うかのように、それでいて慈しむように、ゆっくりと慎重に。

もっと強くしても大丈夫なのに。それでも、その優しさが嬉しくて。

あぁ、やはり母様の部屋に来ていたんだ。

起きている時は恥ずかしさが勝ってしまい、頭を撫でる優しい手から逃げてしまう。

その様子に母様は、微笑みながら手を離してしまう。

本当は、もっと撫でてもらいたいのに。

母様の手はまるで、頑張ったね、えらいね、と褒めるように私に触れる。

私の本音を伝えられればいいのに、そうは思っていても伝えることが出来ない。

もし、私が年相応の子どもであったのなら。

そんなことを考えたって、今は変わりはしない。

せめて、このときだけは、温かく優しい手に撫でられていよう。

夢なのか、はたまた現実なのか、あやふやなこのときだけは。

それがもう、叶わない願いだと知っていても。

この幸せな感覚に浸っていよう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ