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命がけの鬼ごっこ 2

「うぁ、っがはっ!!」

「え、はぁ!?」


いざ、意気込んで少年を助けに行こうとしたら目の前から飛んできた。

これは比喩とかじゃなくて、本当に。

咄嗟に受け止めることは出来たけど、少年は背中に大火傷を負っていた。


「少年、どうした!?」

「い、いから、早く逃げろっ!!」

息も絶え絶えになんとか言葉を発するが背中の傷が深く、すぐに蹲ってしまった。

こんな状態の少年を放置して逃げることが出来るほど俺は非道な人間じゃない。

とは言っても、背中の大火傷を今すぐ治す。なんて奇跡のようなことは出来ない。少しの間だけ、痛みを和らげることや傷が早く直るように手助けをすることはは可能だが……、ここで行うには準備が足りない。

次第に荒くなっていく息が少年の傷の深さを俺に伝えてくる。


「少年、落ち着いて深呼吸をするんだ」

「っ、わ…かった……う゛っ」

「そうだ。そのままゆっくり、呼吸を続けて」

少しでも痛みから解放されたいのか少年はゆっくりと呼吸を続ける。

確か鞄の中にまだ痛み止めの予備があったはず。これがあればだいぶ良くなるんだけど、良薬は口に苦しって言うように苦い。兎に角苦い。


「よかった、まだあった!少年、辛いだろうけど顔上げて」

「っぅ……?」

傷口が焼かれたことによって出血は少ない、それは不幸中の幸いだった。さすがに失った血液は作り出すことが出来ない。

ゆっくりと顔を上げた少年は真っ青だった。ぎりぎり意識を保っているようだった。

こんな状態の少年にあの薬を飲ませる、そう思ったらなんだか申し訳なくなった。

文句は後で幾らでも聞くとしよう。俺も昔は父や藤月さんに騙されてよく変な薬を飲まされて散々わめき散らしたんだし。

自分と同じ目に合わせるのは気の毒だとは思う。それでも痛みが和らぐなら安いもんだと思う。


「ごめん!後で文句聞くから今は我慢して!!」

「うぐっ!?」

「吐かないで、そのまま飲み込んで!」

急に飲ませたのは悪いと思うけど、粉じゃなくて固形状のものだからだいぶましだと俺は思う。

えずきかける少年に水筒の水を無理やり飲ませてなんとか薬を飲ませることが出来た。


「げほっ、なん、……う!」

「すっごい苦いけど、ちゃんと効くから」

とりあえず咽て辛そうだから首の辺りをさすっておく。背中はさすがに撫でられないからな。

少年はあまりの苦さに傷の痛みを忘れているのかもしれない、それくらいこの薬は苦いんだよな……効果は絶大だけど。

さて、痛み止めはあと十分もすれば効いて来るはずだからいいとして。

誰か治癒魔術使える人が近くにいれば手っ取り早いんだけどな、ここには誰もいないし……。


「少年、治癒魔術は使えるか?」

「は、っう゛ぁ……?初級の、三等級までなら」

「よし。なら自分の傷に治癒魔術をかけ続けることは出来るか?」

「それくらいは、平気」

「たぶん、後少ししたら痛み止めが効いてくるから。とりあえず治癒魔術かけて」

こくん、と頷いて少年は自分に治癒魔術をかけ始めた。

初級といえどもまるっきり何もしないよりはましだろう。本当なら治療魔術が使えればよかったんだけど、こればっかりは適正がないと厳しいからな。

……やれないことはないんだけど、さすがにこの場所では無理だな。必要なものも足りないし。雑菌とか入ってたりしたら後が大変だしな。

出来る事ならここから移動しちゃいたいんだけど、少年をこの状態のまま移動させるのは難しい。

何か良い考えがあればな……。

少しでも少年が良くなるように気休め程度に風を送っておく。

最初よりはましに見えるけど、それでも顔色は優れない。








「あれぇ?まだいきてたのぉ?」







全く気配を感じなかった。

これでも侍としてちゃんと鍛錬をしたのに、ここまで接近されるまで気づくことが出来なかった。

思わず手に力が入った。


「追いつかれた、のか……っ!」

「おにごっこ、まだぁ、したかったの?」

「だ、れがっ!」

「少年!!」

「私のこと、はいいからっ、逃げろ!」

焦った少年は勢いよく立ち上がってしまい、傷の痛みで倒れそうになったけど、なんとか持ちこたえた。

このままじゃ危ないからとりあえず抱きかかえる。


「え、!?」

「わぁー、おにぃさんすごーい!」

「危ないからつかまってて」

突然したのは悪いと思うけど、こうでもしないと万が一逃げることになったらすぐに行動に移せなくなるからね。

困惑気味の少年は躊躇っていたけど、弱い力で、それでも肩をつかんだ。

何故かいかにも怪しい女?声だけだからどっちかはわからないけど、たぶん女。そいつは歓声を上げていた。意味がわからん。


「おうじさまだけずるぅい」

「王子?」

「っ!」

‘王子’という言葉に少年は反応して、肩をつかんでいる手に力が入った。

なんとなく訳ありみたいな感じはしていたけども……まさか王子様とは誰も思わないだろう。

まだ、十歳くらいの子どもが一人で逃げているっていうのもおかしいけど。貴族の子であれば誘拐された、なんてことはざらにある。よくて貴族か、もしくは奴隷か。

良くも悪くも予想を裏切って王族だったとはね……。


「まぁ、おうじさまをころしたあとでぇ、おにぃさんとあそべばいいやぁ」

「……随分と物騒だな」

「のんびりして、場合じゃ、ないっ!」

「そうなんだけどさ、ちょっとした現実逃避っていうか……」

「私だって、したい!」

「あたしだけぇ、なかまはずれぇ?」

そういえばだいぶ無視してたような……。

ちょっと見ない間に雰囲気がなんだか禍々しくなったというか、なんと表現したらいいのか。

これは本格的にやばそうということしかわからない。

でも、俺が今やることは一つだ。


「さて、少年」

「な、んだ」

「少年は、どんな思いをしてでも生きたいか?それともこのまま苦しんで死にたいか?」

「それは……」


「死ぬことを選ぶのなら、苦しみはしてもずっと続くわけじゃない。そのかわりにこれからの自分の人生を投げ捨てて逝くだけだ。

生きることを選ぶのなら、これから辛く苦しいことが続くだろうけど、今まで体験したことの無いような素晴らしい出来事を体験できる。そのかわりにこれからはずっと逃げ続ける人生が続く」


自分が今まで生きてきた時間は短いものだろうけど、この少年よりは色々なことを体験してきてはいる。

そんな先輩が出来る事はほんの少し背中を押してやることだけ。最終的な決定権まで奪ってしまったら、そいつは何一つ自分の意思で物事を決めることが出来なくなる。

だから俺は、この少年の本音を聞きたかった。

きっとこの先少年は、俺が思っているよりも辛いことばかりの人生になってしまうんだと思う。なんだかこの小さな背中は昔の自分を見ているようで、救ってやりたくなる。

こんなのはただのエゴだ。俺が罪悪感を少しでも減らすための。

結局こんな小さな少年さえも巻き込む、汚い自分自身への償いのために利用するんだ。

何かに耐えるように肩をつかんでいる手が震えていることには気づかない。俺だって怖いものは怖いんだ。


「わた、しは……」

「ねぇ、ないしょばなしばっかりでぇ、あたしつまんなぁい」

「っ!」

「あちゃー……これは随分とお怒りのようで。さ、どうするよ少年」

どうやら女は待ってくれなさそうだ。攻撃魔術でも使う気なのか独特の低い音が響いてくる。

さすがにこの状態から迎え撃つことは出来ないから早く決めてもらいたいんだけど……、なかなか決まらないよな、そりゃ。

少しでも時間稼ぎが出来るようにある‘物’を女に気づかれないように右手に持っておく。


「私は、ここで死ぬなら」

「ん?」

小さな声だった。けれどその声は確かに意思を持っている。


「どんな思いを、してもいい。逃げ続ける、ことになっていい。‘私’、は死にたく、ない!!」

「よし、よく言った!」

これで強行突破してもいい。

やっとこの場所から離れることができる!


「むだだよぉ?ふたりとも死ぬんだから」

「誰が死ぬかよ」

「え?」

「お前みたいな奴の攻撃なんざ、誰が当たってやるかよ」

「どぉいうこと?」

「魔術使いじゃなくて俺が‘魔法使い’だったら?」

「ま、さか……!」


女の顔が驚愕に歪む。いつまでも自分が優位に立てると思うなよ、バーカ。

自分で思ったけど、たぶん今満面の笑顔を浮かべてると思う。






「さよーなら」






相手に向かって思いっきりある‘物’を投げつけた。



「はぁ!?」

「喋ってたら舌かむぞー」

「いや、魔法って!」

「そんなのハッタリに決まってんじゃん!!」

そう、俺が投げたのは特製煙玉だったりする。魔法なんてそんなん危なくて街中じゃ使えないよ、うん。


「ま、使えないこともないんだけどね」

「?」

「さてと、もうちょい走るの速くするから気ーつけろよー」

「う、そだろ……!?」

煙玉での足止めなんてちょっとしか持たないから、今のうちに出来るだけ遠くに逃げておきたいからな。

少年改め、王子様には我慢してもらおう。






+++++







「けほっ、なにこれぇ」

目の前は煙で覆われていて全く見えない。





「あーぁ、ボスにおこられちゃう。どぅしよう?

まぁ、いっかぁ。こんどあったときにぃ、殺せばいいんだし」


煙が全て消えるころには誰もいなかった。







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