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命がけの鬼ごっこ 1

「どの道が正解なんだ?」

三分の一の確立であの少年が通ったであろう道なんだろうけど……どれだ。

せめて二択ならどちらかのに適当に行ったとしても間違ったならまた最初の道に戻れば済む。

だけど、三つに増えると途端にきつくなる。

運が良ければ最初に選んだ道が正解なのかもしれないが、間違え続ければ今度こそこの薄汚い路地で一夜を過ごさなくてはいけなくなる。


「うーん、ここはやっぱり右なんだろうか。

いや、迷路とかだったら左がいいんだっけ?なら裏の裏をかいて真ん中とか……」

考えれば考えるほどわけがわからなくなる。


「こんなことなら少年の気配、覚えておけばよかったなー」

侍はエルフのように魔術や魔法を使えない代わりに気配をよむことに長けていた。

これはエルフの魔術を使った攻撃に簡単にやられないためにも必要なことだ。相手がどれだけ凄腕の魔術師だって気配を完全に消すことは出来ない。

侍はその微かな気配を頼りに魔術師の攻撃を避けたりする。

普通に侍同士で戦う際にも気配を探る。一対複数の時は気配をよむことが出来なければすぐに殺されてしまう。

どれだけ刀の腕が良くても、不意打ちで攻撃されてしまえば傷を負う。

だから侍は、気配をよむ訓練が出来なければ一人前と認めてもらうことが出来ない。


「迷ってても仕方ない。左に進んでみるか!」

こんなときこそ自分の勘を頼りに進んでみたりすると、結構あってたりする。

外れるときは外れるのだけれど。


いざ、左の道に進もうと足を踏み出したとき、突然真ん中の道から爆発音が聞こえた。


「……は?」

あまりにも大きい音に気の抜けた声が漏れた。

なんとなく怪しいとは思っていたけど、まさかこんな真昼間から攻撃魔術使ってんの?王国って普通はもう少しぐらい治安はいいはずじゃないの?

そんな考えがぐるぐると頭の中を回る。突然の出来事に頭がついていかない。

本能はすぐにこの場所から逃げろ、そう警告を出しているが、足が動かなかった。

もしかしたらさっきの少年が行った道は真ん中だった……、ということはたった今爆発があったであろう道に行かないと大通りには出ることができない、はずだ。


「俺の勘は結局外れてたんだろうけど、正解を選ばなくて良かったのかも……?」

もしも、真ん中の道を進んでいたら爆発に巻き込まれていたのかもしれない。

そう考えるとこの裏路地から抜けれないことを嘆けば良いのか、事件に巻き込まれなかったことを喜べば良いのか、よくわからなかった。


「って、ここで呆けてたら巻き込まれるんじゃね?」

突然の出来事で全く動けなかった俺は、周りを見渡してさっきまでいた人がいなくなっていたことに気が付いた。

というか、あんな爆発音聞いて驚かない人はまずいないだろう。もしかしたらここにいた人たちが原因だったりして……。

あ、なんかそれっぽいから考えるのやめとこ。

ならあの少年は巻き込まれたのか?


「なんだろう、こう……。もやもやするというか、自分がすごく汚い人間のように思えるというか……。

いや、しょうがないんだ。もともとほんの少しだけ会話しただけだし。うん、そうだ、というか赤の他人だし」

自分の中で言い訳を幾つも考えて口に出して少しでも自分の罪悪感を減らそうとする。

でも、離れようにもこの場所を移動することが出来なかった。お人好しだとよく言われた。ある人からは偽善者だとも言われた。

こればかりは根っからの日本人気質というか、自分の性格なんだと思う。

結局は困っている人を無視することが出来ない。家族からはそれがお前の美点であり、汚点であるとも教えられた。


「あー……、やっぱだめだ。」

逃げたほうがいいとわかっている。それでも、逃げる気にはなれなかった。





「いっちょ人助けと行きますか!」






+++++






「どこににげるのぉ、お・う・じ・さ・ま?」

ゆっくりと、それでも確実に追い詰めてくる。

じわじわと神経が侵されていくように、呼吸が速くなっていく。


「っは、はぁ……!」

「まってよぉー。いっしょにあそぼぉよ」

「誰が、お前なんかとっ!!」

「つれないなぁ……」

逃げても、逃げても追ってくる。

こっちはそろそろ限界が近づいているというのに、相手は息すら切らしていない。本当は人の皮を被った化け物じゃないかと思うほどに。

……それなら自分も化け物なのかもしれないけれど。

長時間走り続けた足は棒のように硬く、縺れそうになりながらも足を動かし続ける。一瞬でも止めてしまえばもう、足は動かなくなる。

ほとんど気力だけで走っているようなものだ。


「ほら、ほら!はやくはしらないとぉ、つかまっちゃうよぉー?」

時たま後ろからナイフが飛んでくるが、遊んで投げているだけのようでギリギリ当たってはいないが神経が一気に削られていく。

後ろを振り向いている余裕なんてものはない。振り向けばあの女の哂っている姿が見えるだけだろう。


「くっそ……!」

どんどん表通りから離されていく。このままでは‘奴等’の思う壺だ。

なんとかして逃げ出したいが、そう巧くいくはずがない。

思わず悪態が漏れた。


「あれぇ、どぉしたの?どんどんおいついてきちゃったぁ」

「!?っ嘘だろ!」

「あたし、うそなんていわないよー」

少しずつ近づいてくる声に、嫌な汗が流れてくる。


「あーぁ。つまーんなーい」

感情が削げ落ちたような、抑揚の無い。相手を恐怖に抱かせる、そんな声だった。




「だからぁ、死んでよ。」





後ろから魔術を使うときに出る独特な音が聞こえてくる。

相手は本気で私を殺す気らしい。

今、自分に出来る精一杯の防御魔術を展開する。これで防げるとは思えないが、無いよりはマシだ。




「は、っ!?」

「ばいばぁーい」




背中に今まで体験したことが無い程の痛みが走った。





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