会議をしよう
「それじゃあ、第一回家族会議を始めまーす」
「…………」
「いえーい!」
しらーっとした場の雰囲気を明るくさせようと思ってやったけど、少年の目が、とても冷たいです。
やめて、そんな目でこっちを見ないで!!
何かが、俺の中の何かがガリガリ削られてる気がする!
ここは真面目にやったほうが良かった感じですか?
あんまり堅いと疲れるんだよね……。
「……真面目に、やったほうがいい?」
「リオンさんに任せます」
「あ、はい」
年下の少年に気を使われたよ……もう、お兄さん色々と切ないよ。
いいや、なるようになれってことで、ゆるーく進めよう。
ここまで話を持っていくまでに結構かかってるし、少年もしっかりしてるし、変なことにはなんないだろ。
……別に、ただ単に面倒くさいって訳じゃあない。たぶん。
「とりあえず、君は俺と一緒に旅をしていきます」
「はい」
「家族になるためのお試し期間?とでも思ってくれればいいよ。
気楽な感じでこう、ね。敬語も別にいいからさ」
「……善処します」
「うん、まぁ、ゆっくり慣れてくれればいいから」
敬語はなかなか抜けなさそうだなー、なんて思いつつ考えていたことを話し出す。
「流石に父と子じゃ色々と無理があるから、兄弟ということにしておこうと思います。
細かいことはあとで決めようか」
「わかりました」
「んーっと、あとはそうだな、向かう場所は北にある‘氷の街’だ」
「氷のまち?」
聞いたことの無い街だったのだろうか、少年は首をかしげている。
‘氷の街’はここ二年程前から徐々に名前が知られるようになってきたのだから、知らなくて当然だ。
だからこそ、この街を行き先に選んだのだから。
王国から正反対の位置にあるし、たぶんそこまでは流石に追ってはこないだろう。と考えたからだ。
こんな小さな子どもを本気で殺しに来るくらいなのだから、何か世間には知られたくないようなことがあることはなんとなくわかっている。
それなら表立って少年を探すことは出来ないだろう。
ほとんど繋がりが無い街となれば、不審な行動は取れないだろうし。
「そう。最近貿易で有名になった街でね、雪に覆われているらしいよ」
「雪……」
心なしか少年の目が輝いているように見える。
魔の国では四季というものが存在しないから、雪が降るということがない。
俺が住んでいた北国は逆に雪が完全に溶けることは無かった。
久しぶりの春や夏を経験すると楽しいと素直に思える。
初めて見ることになる雪に、少年はどんな反応をしてくれるのか、少し楽しみになった。
「ま、あとは行ってからのお楽しみってことで」
にっこりと少年に向かって笑いかける。
少し照れくさそうにしながらもこくり、と少年は頷いた。
+++++
「そういえばさ」
「何ですか?」
「少年のことは何て呼べばいいかな」
あ、すっかり忘れていた。
「……え、と」
まさか本名を教えるわけにもいかない。
今まで色々なことがありすぎて、重要なことを全く考えていなかった。
「じゃあ、‘アルス’って呼んでもいいかな?」
「アルス……」
「いや、別に俺の考えた名前じゃなくてもいいからな」
不思議と、違和感を感じることはなかった。
どこか優しさを含んでいるような気さえして、
「え、あの、やっぱり嫌だった……?」
不安そうにこちらを見てくる彼は、とても悪意があると思えなかった。
実際、私を攫うのならもっと手荒でいいはずだ。
誰かに雇われるというのも考えにくい。
もしかしたら、彼は本当に善意だけで助けてくれたのかもしれない。
「アルス」
少しだけ、信じてみよう。
「僕のことは、アルスと呼んでください」
王子としての‘私’ではなく、‘僕’という一人のエルフとして。
嬉しそうに破顔する彼を見ていると、疑っていた自分が馬鹿らしくすら思える。