不思議な人 2
「で、本当のところはどうなんだい?」
「なにが?」
「あの少年のことだよ」
クレアちゃんと少年の足音が完全に聞こえなくなってから、クロードはそう切り出した。
なんとなく気づいてはいると思ってはいたけど、早過ぎないか?
俺はそんなにわかりやすいのだろうか……。
「……、俺があの少年を守る」
「名前も知らない、身分もわからない。厄介者だとしても?」
「あぁ」
「はぁ……、君はお人好しが過ぎるよ」
「そんなことはないはずなんだけどな」
どこか疲れた様子でクロードは椅子に座った。
お人好しなのは俺より、クロードのほうだと思うんだけどな。
こんな俺みたいな「色持ち」に良くしてくれるんだし。
「でも、らしくないじゃないか」
「んー……そうなのか?」
「いつもだったら計画を立ててからじゃないと、行動しないだろ?」
「まぁ、な」
基本、自分の中である程度物事に関して決めておかないといざというときに動けなくなる。
という父の教えで、俺はいつも自分のすることを決めてから行動していた。
だからなのか、クロードは少し心配したようにこちらを見ていた。
実際、これからのことについては何をするのかすら決めていない。
俺はあの少年と、どんな道に進むんだろう?漠然とした考えは纏まることなくふわふわと、頭の中を漂っている。
「これからのことは、全くわからない」
「…………」
「でも、俺は決めたんだ」
あの少年は、迷惑と思っているのかもしれな。
それでもいい。
これは俺が勝手に決めたことなんだから。ただの自己満足。
自分にしかないとしか言い様のないメリットのため。少年を利用するんだ。
どんなに救いの無いことだとしても。
「やりたいって思ったんだ」
誰でもない、自分の意思で。
「そりゃおかしい、って言われてもしょうがないけどさ、
そう思われてもいいぐらいには、俺は本気だよ」
全てを話すことは出来ないけど、俺自身の気持ちは伝えたい。
言葉足らずなのはわかっている。
これだけで納得してくれるとは思わない。
だけど、知っていて欲しいんだ。
ただの自己満足だけど。
「……そうか」
間を開けてから、そうぽつりと呟いて、クロードは諦めたように笑った。
俺はその笑顔に笑い返す。
こんな馬鹿なことを言っても、何だかんだで最終的には俺の言うことを否定しないでくれるんだ。
人のことを散々お人好しと言うくせに、本人だってお人好しなんだ。
「人のこと言えないと思うけど」
「何か言った?」
「いや、言ってないけど」
小さく呟いた言葉は、口の中で消えた。
「何かあれば、話くらいは聞くよ」
「おー、ありがとな」
何だかんだ言って、お互いがこんな性格だからこそこの関係があるのかもしれない。
損な性格であることは自覚している。
それでも、自分がしたいようにしていくんだ。
馬鹿だと笑われることでも、真面目に全てをやり遂げてやろうじゃないか。
きっかけは些細なことだったんだ。
それくらい、小さなことで人は変われることができる。
誰にも気づかれないようなそんなことでも。当人にとっては、衝撃的な出来事だったりするんだ。
知らない人から挨拶されたこと、
誰かに優しくしてもらったこと、
笑いかけてもらったこと、
自分のために誰かが泣いてくれたこと、
どんなことだっていい。
その‘何か’が必要なんだ。
俺だって、あの‘事件’がなければ今頃、腐ったままだったかもしれないしな。
「俺は、俺に出来ることをするよ」
出来ることなんて、限られているんだから。俺は、それに全力を尽くすだけだ。