泡沫の夢、あったかもしれない決闘
諸事情により1年ぶりに書きます。
リハビリがてらに個人的に好きな描写である戦闘をメインに書きました。
そこは闘技場だった。
大理石のように滑らかな材質のリングは古代のコロッセオを思わせる造りであり、しかしそこに観客は無くただ二人の男たちが命の奪い合いを行っている。
「カハハハハッ―――!」
片方は青年期に入ろうかというほどの年代の大柄な茶髪の男だった。
分厚いコートの上からでも分かる太い腕から放たれる一撃は空間を打撃し派手な音を響かせる。
「チッ…!」
対するは十台半ばの黒髪の少年だ。
男と対となるような小柄な体躯に臙脂色の学生服を着ている。
そして彼は男のように無手でもなかった。
「ッシャアッ――――!」
その手に握られた一振りの刀。
どのような術理か、刀を振るたびに間合いの外にいるはずの男に裂傷が刻まれる。
一見すれば押しているのは少年の方だ。
戦闘が開始してから今まで、傷を与えているのは少年の方だけで男の攻撃はかすりさえしていない。
―――――だが、実際に押されているのは少年の方だった。
「はああああ……!」
納刀した状態から神速の居合が複数放たれる。
数にして十数閃。
そしてそれらはあまたず男の体を斬り裂いた。
「か……!」
噴き出すようなおびただしいほどの出血。
今の斬撃で喉や肺などの急所を半ばほどまで断たれたのだ。
常人、いや、魔人の類であっても致命傷なのは明白。
「…お゛、おおおおおおお――――!!」
なのに男は止まらない、倒れない。雄たけびと共に出血がすぐさま止まり、
―――――――血霧を身に纏いながら反撃行動へと移る。
「ッ――――」
剛腕をかろうじて避けるが、先ほどよりも余裕は無かった。
何故ならこの男は死に近づくほど強くなる。
少なくとも戦闘が始まった直後はここまでの力は無かった。
3 回ほど致命傷を与えた頃から気づいた法則だが、 しかし少年にはどうしようもなかった。
彼に出来るのは相手を斬殺することのみ。
体質かあるいは自身の知らないを何かを無効化する術など、そんな都合のいいものは持ち合わせていない。
「ホント固ぇな…」
だからこそ、追い詰められているのは少年の方。
男の桁外れな耐久力と比べても彼の強度は脆弱だ。
あの膂力で一撃でも貰ってしまえばその時点で死ぬだろう。
―――――ならばどうするか?
「殺される前に死ぬまで斬り刻む……!」
シンプルな結論に達した。
だが、これは決して思考放棄して得た答えではない。
何故ならこの男は決して不死身ではないからだ。
常人なら百回は死んでいるような傷を負っても死なない上に戦闘能力まで向上している。これだけ聞けばまるで悪夢だが、よくよく見てみれば出血は止まっているが与えた傷はそのままであり、血に濡れて分かりにくいが顔色も最初に比べると些か悪い。
これはどういう事か?
―――――――失った血液までは戻らないってことか。
ちらり、と地面を見る。
滑らかな石材の上には幾つもの血だまりが存在し、かき集めればそこそこの量はあるだろう。
おそらく、この男は不死身ではなく限りなく死に難いだけなのだ。
そして、動物であるなら必ず流れている血液。
おおよそ三分の一を失ってしまえば命の危機という理屈はこの男でも適用される。
だからこそ先程の結論。
―――――二度と動かなくなるまで斬って斬って斬って斬り刻むのみ。
「おもしれぇ」
男は少年の言葉を聞いて笑みを浮かべる。
その身に無事な所など無い。
受けた斬撃は百を確実に超えているし、自分は殆ど相手の太刀筋を認識出来てはいない。
単純な剣速もそうだが、何よりこちらの意識の外から攻撃してくるのだ。
意識の外、つまりは死角。
人間とはたとえ見えていてもそれが意識の外にあれば実質見えていないのと同じなのだ。
目の前の少年はさりげない仕草や動きでこちらの視線を的確に誘導し意図的に死角を生み出している。しかもほぼ無意識的に、否、無意識に出してしまうほどに体に染み付いてしまっていると言った方がいいだろうか。
恐らく天賦の才を狂気と血のにじむ修練をもって磨き上げた末に至った達人を超えた達人、『魔人』と呼ばれる存在。
男もそういった人間たちは何人か知っているが、全員自分よりも一回りか二回りは年上だ。
この若さでその領域に至ったということに、驚きを超えて思わず称賛さえ送りたくなる。
「けど勝つのは俺だ」
はっきり言って、戦闘技能において男は少年の足元にも及ばない。
精々が喧嘩慣れしたチンピラ程度。場数こそかなりふんでいるものの、あくまで技量面ではそんなものだ。本来ならば戦いが始まったその瞬間に死んでいる。
なのに戦闘と呼べるものが成立している理由。それは男の異能にある。
少年が気づいた通り、男の異能は自身の負傷の度合いに応じた肉体強化である。男がどれほど斬り刻まれても死なないのは、たとえ致命傷を負ってもそれに耐えられるレベルまで無理矢理強化しているのだ。
そして生物として備えている痛覚や恐怖心といった制限は気合と根性、そして男のプライドというある種の狂気染みた精神をもって完全に捻じ伏せている。
このように、単純な白兵戦に置いて凶悪極まりない力でこそあるが、弱点や攻略法は複数存在する。その内の一つが、先ほど少年が気づいた出血による行動不能である。流石の彼とて命の雫である血液が大量に失われれば意識を失うし、最悪の場合は死に至る。
―――――――つーか、何で造血符がねぇんだよ。
とは言え、男とてその弱点はしっかりと把握しているため対応手段を常に常備しているはずだった。が、何故かいつも身に着けているホルスターがどこにも無く、血液量を回復する手段がとれないのだ。
まだまだ戦えなくなるほどの出血量ではないが、長期戦が続くと不味い事になるのは実は男の方でもあった。
――――――ま、やる事には変わりねぇか。
マイナス方向に偏りかけていた思考を切り替える。
どの道、自分に出来る事など究極的に言えば一つしかないのだ。
「どんな攻撃でも耐えて、近づいて、一撃でぶっ飛ばす!」
宣言、そして――――戦闘が再開する。
「がああああああああああああ!!」
先手はあろうことか男の方だった。
先程の負傷により性能面で見るならば完全に少年を凌駕したのだ。
もはや『走る』、というよりも『跳躍』といった表現が適切な突進。その速度は音速手前の領域まで到達している。
「―――――雅堂白山流、第三の太刀」
そして少年は当然の如く対応して見せる。
見てからの反応ではなく、驚異的な観察眼を以って全身の僅かな動きから推察した先読み。
元々技という物は弱者が強者に勝つためのものである。たかが身体能力を上回られた程度、少年の技量ならば覆す事は容易であった。
「――――『人中一閃』!」
構えは上段、狙いは正中。正面から迫る相手の勢いを利用する唐竹割り。
まともに嵌れば鉄塊ですら両断する技である。殺せずとも頭からの出血量であれば今までの比ではない。
男同様、音速一歩手前の速度で振り下ろされた刃は男の頭へと吸い込まれるようにして衝突し、
「ッ―――――!」
ゴリッ、と鈍い音が響いた。
断ち斬った音ではない。固い頭蓋骨と刃が拮抗した音だった。
それはつまり、頭で刃を受け止められたという事に他ならない。
あまりに非常識な事に少年は硬直する―――――硬直してしまった。
「やっと・・・・捕まえたぞ」
それは小さな声だった。しかし、その声には執念の果てに目的を達成した歓喜の色が含まれていた。
受け止められた刀の下、まるで悪鬼のような笑みを浮かべた男が少年の胸ぐらを掴んだ。
「しまっ…!」
この状況が生まれたのは決して偶然ではなく、勘違いと認識の差だった。
第一に、男が強化されるのは身体能力だけではなく、感覚機能や反射能力そして回復力も含まれていたこと。もっとも、強化率は身体能力ほど高い訳ではなく、特に回復力に至っては能力の特性上戦闘に支障をきたさない程度までしか効果を発揮しないある意味お粗末なものだ。それでも、強化された感覚機能によって少年が何をしてくるのか位は認識する事が出来た。
これが勘違い。
そして第二に、それに気付いた男がもう一度『跳躍』し加速したこと。速度が速度であったため停止を諦めて刃を自ら受け入れたのだ――――――最も威力の低いであろう鍔元へと。
無論、それでも頭を断たれるリスクはあったがどの道このままでは殴る事は難しい。
故に男は賭けに出て、そして勝った。
予想外の出来事が起きた側と予想した展開に賭けた男。
どちらに隙が出来るかは語るまでも無い。
これが認識の差。
「くらえやああああああ!!」
――――――故にこの一撃は外れないし躱せない。
胸ぐらを掴まれた少年に出来たのは刀を盾にする事のみだった。
―――――刀ごと、男の拳が少年の胸部へと叩き込まれる。
「がっ…ぐぁ……!!」
筆舌に尽くしがたい威力。
強化に強化を重ねた一撃は、少年を風に煽られた木の葉のように十数m吹き飛ばす。
「ご、ぐほっ…」
ロクな受け身も取れず地面に落下した少年は、その場で大量の血の塊を吐いた。
刀を盾にしたおかげで致命傷は免れたものの、衝撃は体内を蹂躙し骨が砕け内臓も幾つかが損傷したのだ。
端的に言って、生きているのが奇跡に近い。
「つ、あ……」
それでも、刀を地面に突き刺し杖代わりにして立ち上がる。
―――――流石は家の家宝。歪んですりゃいねぇや。
日本刀は頑強なイメージがあるが実際は歪みやすい上に横からの強い衝撃には簡単に折れてしまう。
だが、彼の愛刀は傷一つない。男の一撃を受けてなお無事ということは、それだけこの刀が業物である証明となる。
「刀は折れてないし、手足も動く。…目だって見えるし…痛みなんて無視できる―――――――生きてるんだったら、最後まで勝つことを諦めてたまるかあぁぁぁ!」
刀は武士の魂と言う言葉がある。
その刀が無事である限り、彼は折れないし朽ちない。最後の最後まで勝ちを狙う。
――――――その思想を男は誰よりも叫喚する事が出来た。
「オオオオオ―――――!」
だからこそ、男はすぐさま決着を付けるべく再び距離を詰める。
ほぼ確信に近い直感。このままだと不味い事になると本能が告げるのだ。
もはや死に体の少年向けて渾身の力を込めた右こぶしを叩き込もうとして、
「―――――『逆さ稲妻』」
地表から天へと向けて落ちる稲妻の如き一閃。
―――――それを受けた男の右腕が半ばほどから宙を舞った。
「―――――ツ!」
流石の男も腕を切り落とされてひるんだ、という事は無く刹那にも満たない停滞の後、残った左腕で反撃を加えようとする。
「―――――『朧月』」
切り上げていたはずの刀がいつの間にか下に移動していた。
それに気付いた瞬間、視界がいきなり半分となる。
理由は簡単―――――左目を斬られたのだ。
「チッ!」
そのせいで軌道が若干ズレ、空振りとなってしまう。
幸い、空ぶった腕から発した衝撃波で少年が吹き飛ばされたおかげで追撃は免れたが、男の興味はそこにはなかった。
――――目はともかく、どうやって腕切り落としやがった?
確かに少年の剣は強化された男であっても斬り刻むことを可能とした。
だが、斬り落とすとなれば話は別だ。先ほどの頭部への一撃の分、さらに強化された男の腕を斬り落とすとなれば相応の技、少なくとも自分の頭へ繰り出したレベル以上のものが必要なはずだ。
しかし、満身創痍で死にかけた状態からそんな技が繰り出せるとは思えない。――――通常の状態なら。
「……追い詰められて底力発揮って事か? ピンチで覚醒とかどんな主人公だよオイ」
『フロー』、と呼ばれる心理学の概念がある。
他にゾーン、ピークエクスペリエンスとも呼ばれるそれは『極限の集中』とでも言うべき精神状態だ。
古今東西あらゆる分野で一流と呼ばれる人間が経験する現象であり、有名所ではスポーツ選手がボールが止まって見える、体がイメージ通りに完璧に動く、などの体験談を語っている。
つまるところ、この状態に至ったものは通常以上の性能を発揮する事が出来る。
そして、極限状態においても勝利を求める少年の執念は、自らの精神状態を無理矢理その状態へ移行させたのだ。
本来なら意識して行う事の出来ない現象を自らの意志で行う。
それはもはや人の業ではなく――――――魔人の領域に居る彼だからこそ可能な自己暗示。
その潜在能力をあますとこなく発揮する事が出来る。
――――――故に、今の彼は正真正銘の『魔人』。人でありながら人ならざる業を行使するもの。
――――――単純な切り上げが鋼鉄を斬り裂き、返す刀で斬った事すら相手に認識させない。
ゆらり、と幽鬼のような動きで立ち上がった少年は薄く笑って口を開く。
「はっ、そうだよ羨ましいかコラ。俺って天下無敵の主人公様だから秘められたパワーでどんな逆境でも一発逆転するし、家に帰れば可愛いリアル義妹とクール系美人の彼女といくらでもイチャイチャできんだぜ」
「何処のラノベの主人公だ、特に最後。俺のまわりの女なんて火力バカのキチガイ実姉に引きこもりのダメ人間な相棒にメンへラ戦闘狂ストーカーの三連コンボだぞ。マジやってらんねぇわ」
「そりゃあご愁傷様。いっその事知り合いが全くいない場所とかに逃げたら?」
「5回ほど逃げたが相棒が居場所を特定してストーカーが俺を追い立てて最後に姉貴の大技で丸焼きにされて強制送還させられた」
「うわぁ…」
これが、この場所に立ってから初めての会話だった。
まるで世間話をするかのような気安い声音での会話。
しかし、これは決着の時が近づいている証でもあった。
「んじゃまあ、そろそろか」
「……だな」
始まった時と同じように唐突に会話も終わりを迎える。
そして互いに構えて――――
「雅堂白山流免許皆伝、加藤憲治」
自身の流派と名を名乗りながら少年――――憲治は右手を柄頭に沿え、切っ先を前に押し出すような構えを取る。
フロー状態とは言え彼が死にかけなのは変わりない。胸骨および肋骨は粉砕し内臓も幾つか痛めている。正直な所立つことはおろか息をするのも難しい状態だ。今は気力で体を動かしているがそう長くはもたない。
―――――故に。
「第三種分類不能型異能者、船坂龍一」
自身の等級と名を名乗りながら男――――龍一は残された左手を砕けんばかりに握りしめ、無事な右目で相手を見据える。
片腕を拾ってくっつける余裕などないし、左目が回復するまで数分は時間が掛かる。いや、それ以前にそこまで持たない。先ほど右腕を斬り落とされた時の出血があまりにも激しく、意識が落ちるまでもうあまり時間が無い。
―――――故に
「「行くぞォおおおおおおおお―――――!!」」
―――――この一撃で全てが決まる。
地を蹴ったのは同時だった。
発生するのは円錐状の蒸気。
片方は技術で。もう片方は力技で。
遂に音の壁を突破し最後の激突を開始する。
「―――――雅堂白山流、終の太刀」
速度が互角なら先手を決めるのは技の出が速い方。
ならばその天秤は憲治へ傾くのは当然と言えた。
技量を以って音速突破の際の衝撃波を無効化しつつ、最後の攻撃を繰り出す。
「―――――『韋駄天突き』!!」
放つは今まで使わなかった刺突攻撃にして雅堂白山流の最速奥義。
韋駄天の名の如く、音の倍速で撃ち出された刃は狙い違わず龍一の左胸を貫き―――――心臓を爆散させた。
これもまた衝撃波である。
そもそも雅堂白山流には特殊な握りと振りを用いて発生させるカマイタチや音を超える事によって発生する衝撃波による破壊攻撃の術理がある。この場合、間合いの外から龍一を斬り刻んでいたのが前者で、心臓を破壊したのは後者となる。
―――――どんな生物であれ心臓を失えば死ぬ。
これは生物としては当たり前の事で、それこそ血を失い過ぎれば死ぬという事と全く変わらない。
ただ心臓に刃を刺した程度で死ぬとは思えなかったからこそ、爆散させることで回復不能にした。
元々龍一には憲治の刃はほとんど見えておらず、その上フロー状態で死角である左目側をついたのだ。 恐らく自分が何をされたのかさえ理解できず即死するだろう。
「…へっ」
―――――だというのに。
龍一は、まるで悪戯が成功した少年のような笑みを浮かべた。
心臓が爆散し確実に死んだはずの龍一が。
剣士としての本能が警報を鳴らし、すぐにその場から離れようとする。
―――――その前に、最悪の悪夢が起動した。
「なあっ――――!」
死んだ龍一が動き出した。
憲治の足を踏みつけ動きを制限し左腕を大きく振りかぶる。
―――――『不倒不屈』。それが龍一の異能の名である。
倒れず、屈しない。勝つことを絶対に諦めない。
その強烈なまでの祈りが具現化した能力。
―――――奇しくもそれは憲治と非常に似通った思想だった。
重ねて説明するが『不倒不屈』は自身の受けたダメージに応じた肉体強度の上昇である。
だがこの異能にも許容量と言うものが存在し、今回のように心臓を一瞬一撃で破壊されれば流石に死ぬしかない。
そして、許容量を超えた一撃を受けたとしても彼はすぐには死なないのだ。
百を超える斬撃、頭部への強烈な唐竹割り、右腕切断、左眼球損傷、音速突破時の衝撃波による損傷、駄目押しに心臓破壊による死亡という負傷によって強化された肉体はほんの僅かな時間ではあるが死んでからの活動を可能とする。
彼は死んでも倒れない屈さない、勝利を諦めない。
―――――よって龍一の最期の一撃は憲次の体を両断する威力があった。
「……クソ」
泣き別れした下半身と腕を振り終えた姿勢で完全に息絶えた龍一を尻目に、
「端から、相打ち狙いだったのか…」
その呟きと共に憲治の意識は闇へと落ちて行った。
●
「んでよ、先手を取れなかった時点で相打ち覚悟して、結果は見事に引き分けって訳だ」
『めっずらしいすなぁ、リュー君が自分の勝ち認めないなんて。だっていつも言ってんじゃん『最後まで立ってた奴の勝ちだ』って』
「幾ら最後まで立ってても死んでちゃ流石に勝ちとか言えんだろ」
『ふーん……しっかしその夢でやり合ったっていうサムライボーイ、ホントにただの人間? 実は異能者で気功術あたりで肉体強化してた可能性は?』
「変な話だけどよ、あの夢は何もかもが本物だったって確信できる。んで、俺が感じた限りあいつからは異能使ってる気配はまるでしなかった」
『つーことは、異能なしでリュー君真正面からぶっ殺したって事になるけど……やっぱそいつ人間じゃないって! 絶対どっかの機関で作られた生物兵器とかだよきっと!』
「…あんな生物兵器がいたら世も末だな」
『じゃないとしたら全部リュー君の妄想! 最近ロクに戦ってないドM肉壁のリュー君が欲求不満をこじらせて自分を殺せるようなスーパー剣士を夢想したという説』
「お前が普段俺をどう思ってんのかよぉぉぉく分かったよ。一ヶ月くらい寄らねーからそのつもりで」
『ごめんなさい許して勘弁してください。リュー君がいないと家の掃除家事洗濯が全滅するから』
「最低でも自炊できるくらいにはなろうぜこの駄目人間」
『私がリュー君に嫁入りすれば無問題! 一生養ってあげるから真剣に考えてくんない?』
「真剣に考えたけど俺はまだ人生の墓場に逝きたくないからごめんなさい」
『……残念。ま、諦めないけどさ。それはそうとリュー君はその実在するかも分かんない剣士君の情報が欲しいんだよね? でもさ、いくら私でもいないものを見つけんのは不可能なんだけど』
「絶対に実在するから頼む。何故か分かるんだよ。それにあんな結末、俺も、そして多分あいつも納得できてない。次は現実で会って戦って――――――」
●
「つまり君はボクのような可愛い可愛い彼女とくんずほぐれつする夢ではなく、どこぞのゾンビのような男といちゃつく夢を見たという訳か。それもリアリティ溢れるタイプの夢で」
「それだけ聞くと俺がそっち方面の人間に聞こえるからマジ止めてくんない?」
「安心しなよ。たとえ君が同性愛に走ろうとも人斬りに快楽を覚えるブレードハッピーになろうとも、ボクもあの子もそれら全て丸ごと受け入れて愛すよ」
「どうもありがとう。でも些か愛が重すぎるような気がするんだけど」
「君みたいな軽い男にはちょうどいいさ」
「……俺ってそんなに軽いかなぁ?」
「軽いさ。ちょっとでも目を離せばあっちへフラフラこっちへフラフラと、本当に落ち着きが無い。ボクたちみたいな重石がないとすぐにでも遠くへ飛んで行ってしまう」
「痛い痛い痛い、顔を抓るな。やっぱお前怒ってんだろ」
「何をいまさら。別に君が夢の中で男といちゃついていたこと事態は別に構わないんだ。でも――――」
「でも?」
「――――死んだことは許せない」
「……」
「何だよ両者死亡で引き分けって。夢の中だからって何勝手に死んでるんだ、もう君の命は君一人の物じゃない。ボクとあの子の分も背負ってるんだぞ」
「……」
「まさか君が死んだ後でボク達が後を追わないとでも思っていたのか? もしそうだったとしたら覚えておきなよ。君の終わりはボク達の終わりだって」
「おいおい泣くなよ。…ごめん、確かに自分が死んじまった後の事をほとんど考えてなかった。お前の言う通りだよ、―――――俺って自分を軽視しすぎ」
「…ん、分かったならばよし」
「…あーあ、考えてみりゃあ勝てない挙句殺されたとか最悪な結末じゃねぇか。このままじゃ納得いかん!」
「なら、どうするんだい?」
「何でか知らねーけど、いつか何処かであいつと現実で戦り合う気がする。その時は――――」
●
「「―――――絶対にオレが勝つ!!」」
読了ありがとうございます。
男二人はそれぞれ自分が昔設定と数話だけ書いてみた小説の主人公です。
HDの肥やしになっていたのでリハビリとして戦わせてみました。
久々に9000字書きましたが3日で終わったのは早いのか遅いのか。
何時かまた連載小説を書いてみようと思います。
それではまたいつかよろしくお願いします。