第01話 ミシュタール召喚-05 交渉成立
何か感じたのか、ルーファは不審そうに俺の目を見て言った。
内心冷や汗モノだったが、思わぬ所から助け舟が入る。
「よっぽど、褒美が欲しんだろ? どうせ、貴族にでもなって、贅沢に遊び暮らしたいのさ」
思いっきり俺のことを蔑むように見ながら、シリンが言ってくれた。
テレビもネットもないどころか、電気も使えないような未開の地での贅沢な生活なんぞに、俺はなんの興味もない。
第一、コンビニが存在していない世界で、俺は生きてゆきたくない。
こいつらが、どんな贅沢さを求めているのかは知らないが、少なくとも俺が生きてゆく中で普段必要とする物のほとんどすべてが、コンビニにいくだけで手に入れることが可能なのである。
食料も含めて必要とする物がすべて揃っていて、しかも簡単にすぐ手に入れられる暮らし。
これこそ、贅沢の極みというものだろう。
こんな未開の地に生きる連中には、想像もつかないことだろうが。
内心ではそんなことを考えていても、わざわざ言ったりはしない。
せっかくのアシスト、うまく活用させてもらう。
「そういうことさ。あんた以外の誰かが書いたから無効だと言われたら、目もあてられないんでね」
俺が意図的に作ったニヤニヤ笑いをしばらく監視した後、ルーファが自分の後ろを見て話しかける。
「どなたか、紙とペンを持ってきてください」
それから、およそ十五分後書面が出来上がり、読み上げてもらった。
「これで、満足ですか?」
俺が受け取った書類を鞄に仕舞うのを見て、ルーファが言ってくる。
責めるような口調であると感じたのは、絶対に気のせいなどではない。
もちろん、俺にはそんなのどうでもよかったが。
「それじゃまず、とりあえず城に戻って、グングニルを取り戻す方法を考えた方がよくない?」
ほとんど俺を無視して、シリンがルーファに話しかける。
もちろん、意図的な悪意の発露であるということは、火を見るより明らかだ。
「そうですね、ヘイグル王も心配されていることでしょう。わたしも疲れましたし。転移の門を使って、一旦城に戻りましょう」
ルーファもそれにシリンに同意したようだ。
ヘイグル王の城とやらに行くという流れで話が進んでいる。
なんだかんだ言っても、休みたいということなのだろう。
その気持分からないでもない。
だが、断る。
「なぁ、この上には何があるんだ?」
俺は、天井を指さして聞いた。
「何も……というか、ここはルマイ山の中腹部にある洞窟内になります。ですから、この上にはルマイ山があるということになりますね」
ルーファが素直に答えてくれたので、最初の問題はクリアできた。
「それで、もし召喚した者を元の世界に送り返そうとしたら、この場所じゃないとできないってことはないよな?」
最後の確認。ここが重要である。
「正確に召喚陣を書くことができて、十分な魔力を召喚陣に込めることができれば、どこであろうと可能ですが?」
なぜそんなことを聞くのだろうと、訝しげに俺の方を見ながらルーファが答えてくれた。
その疑問に対して俺は応える気はなかった。
なにしろ、自分の目で確かめたらすむことだからだ。
おれは、自分の気をフェイズシフトしてフェーズ1に移行する。
ちなみにフェーズとは、かつての俺が強敵と闘う度に打ち破ってきた限界のことだ。その度に俺の気は飛躍的にパワーアップしたのだが、フェーズ99で宇宙神を斃し、フェーズ100でハイパー宇宙神を斃した。
ただし、フェーズ100を使うと宇宙が崩壊することが判明したので、限界値はフェーズ99ということになる。
フェーズ1は、その中の一番最弱のフェーズである。
「な、なに? 何が起こってるの?」
おそらく、爆発的に俺の力がアップしたことを感じたのだろう、シリンが驚愕している。
俺としてはあまり興味がないのでそれを無視して、左手を頭上にかざす。
そのまま気砲を放った。
その結果は……。
「な、な、なんなのよ、これ……」
広がる星空。
それを見上げながら、シリンが言った。
他には、ルーファだけでなく、直後まで洞窟内であったこの場所にいる全員が絶句していた。
俺は、ルマイ山ごと天井を取っ払ったのである。