第01話 ミシュタール召喚-04 妥当魔王?
第01話 ミシュタール召喚-04 妥当魔王?
ヘンジンはともかくとして、どうやら召喚というものは、けっこうホイホイできるらしい。
それに関しては朗報であるが、召喚というものは良く言えば任意な条件で、より適切な表現を用いるならば、はた迷惑極まりない条件によってなされるようである。
資質がどうたら言っていたようだが、今の話を聞いた限りではそれ以前の問題だとしか思えない。
突っ込みたい衝動をありったけの精神力で抑えこんだ。
今の話を聞いて、俺的に要点をまとめた質問をぶつけてみることにする。
「グングニルとかどうでもよくて、結局その魔王ゾくマ?を斃してしまえばそれでいいってことだろ?」
これ以上ないってくらい単純化してみたが、俺が聞いた限りではそうとしか思えなかった。
「ゾグマだ、人間。……今の話を聞いてなかったのか? 魔王はあまりに強大な存在だ。我らが魔王ゾグマを斃すためにどれほどの犠牲を払っていると思っている。魔王ゾグマを斃すことができれば言うことはないだろう。だがそのためには、グングニルの力が絶対に必要だ」
シリンが色々と訂正を入れてはきたが、どうやら俺の認識は間違いではなかったらしい。
この世界がどういう状況なのか、魔王ゾグマってやつが一体何をやってきたのかとか、はっきりいって俺にはなんの関係もない話である。
たとえれば、どこかの独裁国家の抵抗勢力に拉致されて、自分の国の主導者が非人道的な行為を続けているから、お前が行って暗殺してこいと言われているようなものである。
普通そんなことを言われたら、ポカーンとするしかないだろう。
ここが異世界だから許される、とかいう話にはならない。
ただ、すでに俺はこうして拉致されてしまっている。
さすがに、無関係だと突っぱねたところで、俺にとって有利に運ぶことは何もない。
さて、ここからが俺にとっての本題である。
「それで、俺が魔王を斃したとして、そのさいの見返りは約束してもらえるんだろうな?」
交渉の開始である。
魔王を斃しました、めでたしめでたし……で終わられたらたまらない。
俺にとってはまったくめでたくないからだ。
すると、それまであまり口を挟まなかったシリンがすぐに反応する。
「見返りを求めるというのですか? それは、勇者の振る舞いとしては適切ではないと思います」
どうも、俺のことを責めてるようすだ。
俺のことを見つめる視線にも、侮蔑の色が混じっている。
俺としては言いたいことは山ほどあるが、今の交渉とは関係ないことなので、それには触れない。
「返事を聞かせてくれ」
俺は余計なことを一切話さずに、交渉を進める。
話を聞く限りでは、俺の方が交渉を有利に進められる立場に立てるはずだ。
ただ、交渉の条件が元の世界に帰ることだと知られると、逆にそれを相手に交渉の道具として使われる可能性もある。
例えれば、人質をとられてしまうようなもので、そうなれば正直俺の方は打つ手がなくなる。
だがら、俺がどんな人間だと思われようと、そこの所は曖昧な交渉をすすめたかった。
「そういうたぐいの人間であることは、よくわかりました。あなたが望む物ははなんでしょう? たくさんの金貨ですか? それとも、所領が望みですか? それがなんであれ、ならずヘイグル王にかけあって望みを果たすと、このルーファが約束いたしましょう」
あっさりと、ルーファが約束した。
それにしても、この世界の人間だからか、それともハイエルフという存在がそうなのか、あるいはルーファが特別なのかは判断つかないが、いきなり空手形を切ってくれるとは思わなかった。
俺としては非常にありがたいのだが、代表者の行う交渉としては落第点しか付けられないだろう。
でも、俺としてはまだこれで終わるわけにはいかない。
言質は取っても、それが反故にされては泣くに泣けなくなる。
「悪いが、書面にしてくれないか?」
もちろん、俺はこの世界の文字なんざ読めない。
だが、そのことをこいつらは知らない。だから、読み上げさせればすむ話だ。
「……用心深いのですね。分かりました、書類はのちほど誰かに作らせましょう」
などというルーファに対して、俺は速攻で切り返す。
「だめだ。今ここで、あんたの手でやってくれ」
交渉としては、足元を見られる可能性があり、危険ではある。
それでも、俺としては、とにかく時間が惜しかった。
なにしろ、俺の夢がかかっている。
「……なにを、そんなに焦っているのです?」