第08話 宇宙英雄伝説03 民主主義とバリアブル戦闘機編 - 51 - 取り決め
第08話 宇宙英雄伝説03 民主主義とバリアブル戦闘機編 - 51 - 取り決め
「今送ったのは、銀行との契約内容だ。メインバンクをラートラ銀行に変えた。さすがに緊急だから苦労したが、これで資産の管理と資金の手配は一切問題なくなった」
説明を聞きながら送られてきたファイルを確認すると、ジョンが今話していた契約書であった。細々としたことが書かれているが、概要としてはジョンの話したことと一致する。
「共和国最大の銀行か。よくメインバンクを引き受けてくれたもんだ。だが、メインバンク通しでは派手なことはできんぞ。そこのところは大丈夫か?」
ようするに汚い金を動かすための銀行が必要であるという意味なのだが。
「ああ、その辺りのことは任せてくれ。そっちの世界での対応は慣れているからな」
さすがに抜かりはないようだ。
健全すぎる企業に、政治家はついてこない。
何も政治家ばかりの話ではないが、表沙汰にできない金を必要とするのは政治家の常であった。
そもそも、清濁併せ持つことのできない政治家は独裁に走るしかない。
「問題なさそうだな。それでは、俺はラポに戻る。また端末でのやり取りになるが、よろしく頼む」
俺は席を立ち、向かいの席にいるジョンに右手を差し出した。
すると、ジョンも立ち上がり同じく右手を差し出す。
首が痛くなるくらい見上げないとならないのは、しかたないとしても、握手の方は俺の手はすっぽりとジョンの手の中に包まれてしまい、なんだかなぁという感じになってしまった。
果たしてこれを握手と呼べるのか疑問であるが、とりあえずこれでお別れだ。
「あんまり無茶するんじゃないぞ。まぁ単機で戦艦を沈めてしまうようなヤツに言ってもしかたない気もするがな」
去り際にジョンがそんなことを言ってきた。
俺は背中を向けたまま右手を振って返事に換える。
出る前にナビリに挨拶をしとこうと思ったのだが、フロアのどこにも姿が見えなかった。
気を探れば居場所はわかるがやめておく。
こういったものは縁である。
出会う時も、そして別れる時も。
俺は階段を使って屋上に向かう。
エレベーターは搬送で使っているので、俺の身一つを運ぶために使うのはもったいない。
それに、駆け登ればエレベーターより遥かに早く移動できる。
階段から屋上に出ると、そこにはナビリが立っていた。
俺の姿を見ると、頭を下げてくる。
「どうした?」
なぜ俺が屋上に向かうことが分かったのか、それが不思議だった。




