第08話 宇宙英雄伝説03 民主主義とバリアブル戦闘機編 - 30 - 正体
第08話 宇宙英雄伝説03 民主主義とバリアブル戦闘機編 - 30 - 正体
黒いスーツを着た男の容姿そのものは特徴がないのが特徴であると言えたが、2メートルを超える長身は目立つとこの上ない。
ずっと気を探っていたので、この男がターゲットで間違いはない。
特別機やチャーター機といったシャトルを利用しないのは、目立ちたくないからだろう。
おそらくこの男がここにいることは誰に知られたくないはずだ。
一般客に紛れていればまず見つかることはない。
もちろん、すでに特定できていれば話しは別である。
俺は気を捉えているし、後を任せたやつが見失ったとしてもこの男が自分の気を消さない限り俺が見つけ出す。
「今ので十分です。その男は共和党の議員でナシム・ドルシマ。下院議長を務める大物です」
通話している相手はいつの間にかジョンから別の相手に変わっていた。
女だ、とても美しい。
「君は?」
俺が短く尋ねると。
「これは失礼しました。私はレア・コンデレス。アルヴァニ社でネットワーク管理をやっていました。できれば、レアとお呼びください」
ジョンがそっち系の技術者と言ってたのは彼女のことだろう。
ハッカーとかではなく、正当な技術者を引っ張ってきたようだ。
「それにしても議員が絡んでいるか。色々と厄介そうだな。まぁ、戦艦を非公式に動かせるとなると、それなりの権力者でなくては無理だろうが。公になれば自分の首を締めかねんというのに、それを覚悟の上でやらなくてはならん理由があるということか。想像はしていたが、ここまで影響力があるというのは想定外だな」
俺は心の声をそのまま口にする。
もちろんそれは聞かせるためだ。レアではなくジョンに。
これから闘いになる相手。それを予見させるために。
「その戦艦なのですが、そちらの端末に設計図を送りました」
レアは俺の愚痴に付き合わず、淡々と自分の仕事を報告してくる。
俺はレアの顔が写っている端末のスクリーンに、かぶせるように今送られて来た戦艦の設計図を表示する。
驚いたことに建造時に使用された設計図で、これがあれば同型艦を建造することすら可能である。
もちろん最重要軍事機密の一つである。
「確認した。よくやった、レア。ドルシマ議員の監視は頼む」
軽く礼を言っただけだが、しかしこんな情報をなんなく入手できるというのは超がつく技術者である証明だろう。
そこらのハッカーなどでは足元にも及ぶまい。
「はい、了解しました」
余計なことは言わず、レアは至って普通の答えを返しただけで通信を切った。




