第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 53 - 心配
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 53 - 心配
チロには家のことをすべて任せて、ずっと放置してきた。
もちろん、その辺りのことはこれから先も変わらないだろう。
ただそれでも、少しばかりの報酬を与えることくらいはしといた方がよかったのかも知れないが、今更というところだろう。
それに……。
「ご主人さま、また行かれるのですか?」
チロが俺に聞いてきた。
やはりチロ相手には隠せないようだ。
「ああ」
ここでウソをついても仕方ないので、俺は肯定する。
「それは、チロにはムリなことなのですね?」
不安そうな様子を隠すことなく、俺にストレートに聞いてくる。
「そうだな」
俺も正直に答える。
すると、チロはいまにも泣き出しそうな表情になる。
「もっと、チロはもっとご主人さまのお役にたちたいです。それだけの力が及ばないことが、とても口惜しいです……」
そう言って唇を噛み締めるチロの左の瞳から、透明な雫がひとすじ流れ落ちる。
俺は、右手をチロの頬にあて、親指で濡れた顔を拭ってやる。
「一晩で二つの銀河を往復してこなくてはならない。そんなことができる存在は幾つもの宇宙を探したところで、片手で数えられるほどしかいないだろう。俺がその一人だというだけの話しだ。チロが気にするようなことではない」
チロからの報告を受けて、俺はこの後すぐにアルメイル銀河向かう必要がでてきた。
もちろんチロに任せることができない理由がある。
いくらチロが圧倒的な能力の持ち主だかと言っても、ハイパードライブ航法のように超光速で動けるわけではない。
つまり宇宙空間での移動は宇宙船に頼るしかないのだが、最速の船を使ってもハイパードライブ航法では、ひと月以上はかかる航海となる。
もちろん、途中で敵艦隊に遭遇しなければの話しである。
そして現実的に考えれば、ほぼ間違いなく遭遇する。
なぜならクレアル海に俺が空けた回廊には、ソーグ帝国もラートラ共和国も双方が多数の探査プルーブを敷設しており、ステルス船を使っても素通りすることは不可能だからだ。
当然そこから先には進めない。
というわけで、結局の所俺が一人でラートラ共和国に向かうしかないという結論になる。
それに、向こうで動く場合俺一人の方が何かと都合がいいということもあるのだが。
いずれにしても、まだしばらく俺は休めそうもない。
「わかりました。でも、ご主人さま、お気をつけて」




