第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 52 - 困難な依頼
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 52 - 困難な依頼
「やめてください、ご主人さま。このような使命を与えてくだされることこそが私の喜びだと言うのに。ご主人さまですら二の足を踏むような相手に、軽々しいことは申せませんが。全身全霊を上げましても、かならずやこの使命まっとういたします」
そう、俺がナジュに与えたミッションは、誰にも知られることなく、ケルンと皇帝の関係を探り出すというものであった。
それは、戦って勝てばいいというような単純なものではない。
相手に悟られた瞬間に、ミッションは失敗する。そういう類のものである。
成功する確率を計算するなら、頭にゼロがいくつ並ぶか分からない、そんな困難なミッションだ。
だが、成功すればそんな計算など関係なくなる。
そして、それが可能なのはチロしかないと俺は思っている。
そもそも、チロがいなかったら成立しないし、チロが失敗するようなら誰もできない。
そういう類の、いわば選択肢のないミッションなのだ。
「しばらくは連絡取がれなくなるな。すべて自分の判断で動いてくれていい。結果がどうであろうと、一切俺は何も言うことはない」
俺は最後に一言付け加えておいた。
もちろん、成功してくれるに越したことはないが、失敗したとしてもそこで終りではない。
俺は全体を見渡して想定されるあらゆる状況に合わせて計略を立てていく。
成功するか失敗するかという二者択一なら、それほどややこしい話しではない。
いかなる状況になったとしても、何かしらの手はあるものだ。
ましてや、困難なミッションを依頼する以上、リスクに対応するための手段を準備できていないというのは、明らかに俺の責任である。
「いえ、かならず成功させてみせます!」
チロは真剣な瞳を俺に向けながら、きっぱりとそう断言した。
「そうか、わかった。期待している」
その意思を受け止めて、俺はそれだけを口にした。
もちろんリスク・マネージメントはしっかりとやっておく。
それと、チロのことを信じるかどうかはまた別の話しだ。
チロがやり遂げることを信じてた上で、失敗した場合の対応もしておこうということである。
嬉しそうに俺の顔を見てくるチロの頭に手を置いて、髪の毛をもしゃもしゃってしてやった。
すると、チロは恍惚とした表情になり、なぜか涙を流し始める。
よっぽど嬉しかったのだろう。
これくらいのことで、ここまで喜ばれると逆に少しばかり心が痛む。




