第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 46 - メモ
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 46 - メモ
艦内の士官用居住区に入り、その中の一室の扉の前に立つ。
周囲に人影がないことを確認すると、扉を開いて中に入る。
もちろん鍵はかかっていたが、ルート権限で解錠すると難なく開くことができた。
中は帝国の士官に相応しい広く立派な部屋だったが、驚くほど装飾が無かった。
おそらく最初から無かったわけではなく、新たにこの部屋の主となった人物が撤去させたのだろう。
華美を嫌うタイプの男であるらしい。
俺は机の引き出しを開き、その中にあった紙と筆記用具を取り出すと、短い文章でメモを書き残す。
『言葉を話す、白い獣に気を許すな』
俺はそのメモを机の上に置いたままにして、ドアの前で待つ。
ブリッジの方から部屋の主が近づいて来ることが気を探っていたのでわかっていた。
完全に気配を消しドアの正面に立って待つ。
長い時間はかからなかった。
ドアが開く。
正面に立っていたのは、新たに英雄となったコーグ・ド・ファリス准将である。
ファリス准将が自室に入ってくるタイミングに合わせて、俺はドアをすり抜ける。
もちろんファリス准将が気づくことはなかった。
すぐに机の上に残してきた物に気がつくだろうが、一切さわぐことはないだろう。
確認するまでもなく、メモはすぐに焼き捨てるはずだ。
少なくとも俺ならそうする。
そうすれば、俺の侵入した形跡は完全になくなる。
それどころか、俺が伝えたことも俺とファリス准将だけが共有することになる。
ここで大切なことは、ファリス准将と俺だけであるということだ。
白ハクにその内容が知られることはない。
そのことは確認してある。
白ハクは俺を含めて全ての英雄の行動や言動を把握している。
いや、監視していると言い換えたほうがいいだろう。
ただ、その中にも盲点は存在している。
英雄が関与した全ての行動と、アクセスした通信並びデータは監視対象になっている。
どれほど膨大なデータだろうが、白ハクにとっては苦にもならないはずだ。
だが、手書きのメモに関してはその監視対象から外れている。
手書きの文章を使い直接情報の受け渡しを行うという事態を想定していないのだ。
そのことには、最初に白ハクとあった夜に確認していた。
俺が白ハクというか、その飼主である高次元の存在に連れ去られる直前にメモを残してきたことに対して白ハクは何も触れなかった。
そして、この瞬間に至るまでなんの手も打っていない。




