第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 34 - 英雄の利用
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 34 - 英雄の利用
俺はその話しを聞いて、心の中で一つ手応えを得る。
ようやく、ここまで話しを持ってくることができた。
だが、これで気を緩めることなど到底できない。
というのも、ここからが本番であったからだ。
『英雄たちの帰還ですか? それは目出度きことですわね』
あくまで俺は知らぬ体を装いながら、話しを誘導するように語らせる。
「英雄……ですかな?」
不思議そうにギルヴァン公爵が聞いてくる。
もちろんそうだろう。
ギルヴァン公爵にしてみれば、単なる損耗した兵力を後退させたくらいにしか考えていまい。
そもそも、後退せざるを得ないくらい敵から攻撃を受けたということである。
その責任は誰かがとる必要はあるだろうが、財務尚書であるギルヴァン公爵には関係のない話しであった。
だから、ギルヴァン公爵にしてみれば、ナジュの口から出た話しは唐突以外の何物でもなかったのである。
『回廊に侵入した敵艦隊と交戦してこれを打ち払ったのではないですか? 少なくとも敵艦隊は我が銀河に侵攻してきていない。そう考えると、英雄たる資格は十分にありますわ。わたくしはそう思ったのですが?』
俺はギルヴァン公爵の言葉をきっかけにして、俺がここに来た一番の目的を果たしにかかる。
ナジュの口から今の言葉を聞いたギルヴァン公爵は、少しの間黙り込んで何やら考えているみたいであった。
俺にはギルヴァン公爵が今何を考えているのか、概ね察しがついている。
要はそう複雑なことではない。
帰還兵を英雄として扱うことで、自分にどういうメリットがあり逆にデメリットはどういうものがあるのか秤にかけているのである。
とは言えそこまでややこしい話しではない。
というのも、回廊が存在する以上、この先延々と艦隊戦が続くことになるのは誰が考えても明らかである。
となれば、英雄を立てて戦意高揚を図っておくのも一つの手段である。
おそらく、そんな所だろう。
ただ、ギルヴァン公爵はあくまで財務尚書である。
この時思考の主軸となっているのは、予算のことである。
戦費というものは、底の抜けた桶のようなもの。
垂れ流す一方でけして貯まることはない。
つまり、戦意高揚を図ることで増税の口実に使えないかと考えているのである。
財務尚書の立場としては当然であるが、マクロ的経済で考えれば明らかな間違いである。
通貨を発行するか、国債を発行して財源とすればいい。




