第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 32 - 誘導
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 32 - 誘導
ただ、もし仮にクレアル海が敵の手に落ちるようなことにでもなれば、エルミシウム銀河を敵の侵攻を防ぐための防波堤の役割を強制的に担わされることになる。
実入りの少ない割に、非常にリスクの高い領星系であり、先代の領主であるクルス・フォン・ゲッペルン男爵が亡くなった後その領地の帰属は決まらないまま、何十年もの年が過ぎていた。
早い話しが、なり手がいなかったということである。
その辺りの事情を含めたギルヴァン公爵の見せた反応である。
『もし、ご心配なされているなら不要ですわ』
最初の自己紹介でギルヴァン公爵の心象に十分なインパクトをもたらしたことを確信した俺は、二人から若干距離をとりつつナジュに話させる。
「ほう? その理由を詳しく聞かせていただけますかな?」
さすがに財務尚書という要職にある男である。
こういった情報には、確実に食いついてくると思っていた。
『簡単なことですわ。これから先、共和国との戦争は激化いたしますもの。ラーゼラ領は戦略上重要な領星系となりますわ』
俺はナジュに、はっきりと言わせる。
すると、財務尚書の目つきが変わった。
「ほう? 大規模な戦争になると? 共和国との間では五百年に渡って膠着状態が続いてますよ? 小さな小競り合い程度の戦いはあっても、大規模な戦闘は起こり得ない。その理由は当然ご存知とは思いますが、航路上にクレアル海という自然の要害が存在するからです。ソーグ帝国とラートラ共和国の艦隊がクレアル海を挟んで向かい合っている限り大艦隊が無傷で抜けてくることはできない。五百年間に及ぶ大艦隊同士の回戦がなかったのはその物理的な理由によるものだ。あなたのおっしゃることは、その現実を覆すものです。できれば、根拠は一体どこから出てきているのか教えていただけますかな?」
けっこう長めに説明した後、ギルヴァン公爵はさぐりを入れてきた。
もちろん、ギルヴァン公爵には早い段階で前線からの報告が入っているはずだ。
そういった情報があることなどまったく知らぬげに聞いてくる。
貴族とは言っても、政府中枢を牛耳る連中というものは、この程度の駆け引きなど息をするように出来る人種なのである。
まぁ、その一番の親玉があの妖怪なのだから推して知るべしというべきか。




