第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 31 - 財務尚書
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 31 - 財務尚書
そう、ここまで来たのもすべて、この男ゼッペルグ・フォン・ギルヴァン公爵に会うためであった。
とは言え、このままでは話しかけることはできない。
もちろんそのための対策はしっかりと打っている。
このあたりのことは想定内であるからそれほど問題にはならない。
しばらく様子を見ていると、財務尚書ギルヴァン公爵に近寄ってきた貴族連中が次々と離れていく。
もちろんこんなことは偶然では起きない。
この会場に呼んでいた、俺の集めたご婦人方が動いてくれているのだ。
財務尚書に近寄ろうとしている貴族達に話しかけて、さりげなく遠ざけてくれているのだ。
『さぁいくぞ』
俺はナジュを促して、財務尚書の下にいく。
すると、急に一人になったギルヴァン公爵は一人でワイングラスをちょうど空けた所であった。
『どうぞ、公爵さま。と言って、酌をしてやれ』
俺は短い言葉でナジュに指示を出す。
ここからは、すべて命令する形での指示になる。
なにしろ、このために今までの行動があるのである。
失敗するわけにはいかない。
「どうぞ、公爵さま」
俺の指示通りに、ナジュは動いてくれた。
「これはこれはありがとう。 して、麗しいご婦人ですが……どちら様ですかな?」
ギルヴァン公爵は酌を受けた後、ナジュの顔を見て言った。
『この度、ラーゼラ領を譲渡されました、エルフリーデ・フォン・レーゼン男爵夫人と申します。以後お見知りおきを』
俺が言った通りのセリフを一字一句そのままナジュは話す。
おそらく、今の話したことの意味などまったく分かっていないことだろう。
「ほう? ラーゼラ領ですか。それはまた、なんとも……」
ナジュが口にした言葉を聞いたとたん、ギルヴァン公爵のナジュを見る目が変わっていた。
言葉の方も最後の方で言いよどみ、何かを誤魔化すようにナジュに注いでもらった酒を口にする。
それも当然で、ラーゼラ領はソーグ帝国が支配するエルミシウム銀河の最外縁部に存在しており、はっきり言って辺境の地である。
ただ、それだけならば他にも似たような領星系は沢山あるが、ラーゼラ領が特殊なのはエンドミア星系との航路上に存在すると言う点である。
これと言った資源もなく、軍事拠点として要害の地となれるような場所でもなく、艦隊が寄港するためには微妙に母港からの距離が近すぎて意味を持たない。
それこそ最大の戦略拠点となるクレアル海への通り道でしかない。




