第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 29 - 挨拶
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 29 - 挨拶
ただでさえ、ややっこしい状況に置かれているというのに、好き好んで最も深い深淵の中を覗いてみる必要はないだろう。
少し調べた情報だけでも闇の深さを想像できてしまえる程なのだが、実際にこうして自分の目で見てみると己の想像力のなさに驚いてしまうほど、妖怪じみた老人であった。
こんなのと一緒にいたのだ、ナールス伯爵夫人がいかに普通でないご婦人なのかは想像するまでもないだろう。
ナジュの座った位置は、皇帝からはそれなりに距離があった。
コの字に誂えてある食卓の中央付近で、宮廷内でのヒエラルキーとしてはとても上位とは言えない場所取りであった。
もちろんこの場所を選択したのには意味がある。
全体からは目立たず、逆に全体を見渡せる位置にあった。
もちろん俺は全員を見ているわけではない。
今日接触しようと考えている人物の動向を見失わないように観察出来る場所がここだったのである。
ナジュの両隣には、ランドール子爵婦人とリゼロッタ男爵夫人が座り、周囲に愛想を振りまいている。
もちろん皇帝がお出ましになられているので、会話は誰もしていない。
貴族全員が所定の位置についたことを確認した運営側が、マイクを皇帝の隣に座っていた貴族に渡す。
「お集まりの諸君。今宵の宴はクレアル海における憎き同盟軍との戦闘で、勝利収めた戦勝祝だ。大いに飲んで寛いでくれ。たがその前に、今から皇帝陛下からのお言葉を賜ることができる。心して聞いてくれ」
貴族は慣れた感でそう言った後、隣に座っていた皇帝ラーギュルヌにマイクを渡す。
渡すと言っても、110才の超高齢者ではまともに受け取ることはできないので、目の前に置かれているマイクスタンドにマイク差した。
それを見た皇帝はマイクに自分の顔を近づけて話す。
「今宵も見知った顔ばかりかと思うておったら、ほれそこに気色の変わったおなごがおる。せいぜい卿らも仲良うしてやってくれ」
皇帝の話しに登場した人物は、もちろんナジュのことである。
だが、皇帝ははっきりとこちらを見ていたが、ナジュのことを見ているわけではなかった。
明らかに視線は俺の方を向いている。
何か口にだしたりとか特別な合図を送ってくるとか言うわけでない。
その行為事態が俺だけにしか分からない、何らかのメッセージになっているのだ。




