第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 25 - 無声器
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 25 - 無声器
もっとも、そのために俺がナジュにびったりと張り付いて、対応していくつもりなのであるが。
とは言っても予定は予定にしか過ぎないので、不測の事態も想定しておかなくてはならなかった。
その時のために、俺はナジュに保険をかけておくことにする。
予め手配をかけていた通り、シートの上に置かれていた小さな袋を取り出すと、中から丸く小さなシールのような物をつまみ出す。
「右を向いてみろ」
ナジュに向かって言うと、何なんだという顔はしたが結構素直に従った。
俺は取り出したシールをナジュの耳の後ろに貼り付ける。
続いて俺も同じように自分の耳の後ろにシールを貼り付けた。
その上で、俺は自分の声帯を使わず話してみる。
ようするに、声を出さずに話したのだ。
『こっちを向いてみろ』
すると、ナジュは指示通りにこっちを向いた。
ちゃんと聞こえているようである。
「『えっ? なんか、声がおかしくない?』」
ナジュが俺に向かって言ってきたのだが、二つの声が重なって聞こえている。
もちろん、俺は音声としての言葉を聞いているわけではないので、まったく問題はない。
ただ、こんな使い方ではこの装置を使う意味がなくなる。
『声は出さずに話してみろ』
俺が指示を出すと、
『こうか?』
今度はまともに聞こえてきた。
『こいつは、声を出すことなく話せる通話端末だ。帝宮では、さすがにこれまでのように、全て俺だけが貴族連中と応対するというわけにはいかない。俺の助けが必要になったら今のように使うといい。もちろん必要な場面では俺の方からもどんどん指示を出していく』
俺は簡単な説明をしておいた。
「『わかった、まーかせて』」
ナジュは普通に声を出して答えてきた。
本当に分かっているのかどうにも怪しい。
とは言え、これにばかり時間を取られるわけにはいかない。
とりあえず、ナジュのことはこのくらいにして、俺はあちこちと連絡をとった。
もちろん、これから帝宮に赴くための準備のためだ。
その中には、ナールス伯爵夫人もいた。
その他にもファーイースト・コーポレートの役員となった貴族の中から二人に話しをつける。
宮廷におけるナジュ、すなわちレーゼン男爵夫人の護衛は実質的に彼女らの役割である。
どんなに戦闘力を極めようと、優秀な軍人であろうと、帝宮においてはなんの意味もない。




