第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 19 - メッセージ
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 19 - メッセージ
「そう言えば、そうでした。何なりと言ってもらって結構ですわ。わたくしに出来ることでしたらなんなりと」
随分と兼が取れて穏やかな口調でナールス伯爵夫人が言ってくる。
おそらく、この話し方が本来の話し方なのだろう。
俺は端末を操作した後言う。
「これに関しては急ぎませんので、後ほどお一人で端末を確認しておいてください」
俺が今送ったメッセージを確認したナールス伯爵夫人は、わずかばかり目を細めるとすぐに笑顔をつくり答える。
「分かりました。そうさせて頂きます」
見事な笑顔を浮かべたナールス伯爵夫人の、とてもにこやかな返答であった。
ただ、俺が送ったメッセージの内容は、そんなものではなかったのだが。
なにしろ、おそらくずっと頼ってきたはずの家令を告発する内容であったのだから。
つまり、俺の提示した条件とは、ケルンは早期に解雇するようにというものであった。
そして、メッセージの内容のほとんどは俺が事前に調べさせていたケルンの行動である。
そして、最後に俺自身が確認した上での推測を付け加えておいた。
さほど難しい内容ではない。
ケルンは皇帝陛下の第二夫人がナールス伯爵夫人を没落させるために送り込んだ工作員であるという内容である。
そのことは俺の推測であるが、おそらく間違ってはいないだろう。
だが、真のケルンの主は別にいるはずなのだが、そこまで掴むことはできなかった。
それをどう受け止めた上で判断し、いかなる対処をするかについてはナールス伯爵夫人に任せることになる。
ただし、ケルンを切らないようなら、俺はナールス伯爵夫人を切るつもりではいた。
「それでは、我が主はこの後予定がありますので、早々においとまさせていただきます」
俺は、別れを切り出す。
「分かりました。そちらのすべての条件は、早々に対応しておきますので、どうぞご安心ください」
俺とナジュが立ち上がったタイミングでナールス伯爵夫人が言ってくる。
なるほど、さすがに宮廷で生き延びてきただけのことはある。
すべてというのは、最後に提示した条件も含まれるということを暗につ伝えてきたのだ。
「我が主も期待しております」
俺はそれだけを話すと、頭を下げる。
「今後ともよしなに」
ナジュを先に部屋の外に送り出した後、俺の背中に向かってナールス伯爵夫人が掛けてきた言葉はそれだった。
どうやら気づいていたようだ。




