第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 17 - 追加提案
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 17 - 追加提案
逆に言えば書類上ならどんな資料を見ても完璧になるようにしておいた。
さらに言えば、俺の仕掛けたこの取引すべてが幻想でできている。
様々な提案やら条件を提示してみせたが、俺自身の真の狙いはその中に潜ませていた。
「分かりました。どの道受け入れるしかないのです。でも、一つだけ条件があります」
追い詰められていても、魑魅魍魎の住処である宮廷で女一人の力で渡り歩いてきた女怪である。
この期に及んで条件を付けてくるとは大したものである。
「その条件とは?」
俺は余裕を感じられる程度に程よい間を置いて尋ねる。
「今、この場で契約をしてもらいたい。それが条件」
その言葉を聞いて、俺がどう思ったのかはこのさいどうでもいい。
ただ、その条件というのは俺にとって願ってもないことだけは確かである。
なぜなら、俺が様々な要求やら回りくどい提案やらをしたのも、すべてナールス伯爵夫人が自ら望んでファーイースト・コーポレートの役員の一人に名を連ねさせるためだったのだから。
つまり、俺が要求した条件はすべて目眩ましに過ぎない。
俺が提示した報酬こそが、真の目的であった。
もちろん、そのことを気づかせるようなことはしない。そもそも俺の目的を知っているのは俺自身だけだ。これまでも、これからも。
何はともあれ、魚は餌に食いついた。
後は慎重に釣り上げるだけであった。
俺は再びナジュの言葉を着ているフリをした後、ナールス伯爵夫人に告げる。
「伯爵夫人閣下。男爵夫人は了解したとのことです。では、そちらの端末に必要な書面を送りますので、確認した上で署名してください」
俺は持参した小型の端末から伯爵夫人宛に書面を送信する。
「確認したわ……少し、お待ちなさい」
ナールス伯爵夫人は答えると、指で背後に控えていたケルンを呼び端末を見せる。
それから二人の間で数回のやり取りがなされた後、ナールス伯爵夫人は端末にサインを行った。
すぐにそれは俺が使う端末に反映されて、ナールス伯爵夫人の正式なサインが書き込まれていることが確認できた。
「これで、契約は成立です。貴方の口座を確認してください」
サインがされると同時にナールス伯爵夫人の口座に資金が振り込まれるように手続きを済ませていた。
なのですでにナールス伯爵夫人の銀行口座に反映されているはずである。




