第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 15 - 提案
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 15 - 提案
「宮廷の儀礼もそなたがやると、こうもわたくしの気持ちを逆なでするものはなぜなのでしょうね? 良いでしょう、それでは具体的に男爵夫人の提案を聞きましょう」
ここに来て、さすがに耐えきれなくなったようで、とてもはっきりとした嫌味を一つ言った後いよいよ本題の交渉に入る旨を伝えてきた。
俺はまたナジュの口元に耳を近づけると話しを聞いているフリをしながら、しばし時間を置いてケルンの様子を確認する。
表情にはまったく変化はなかったが、右手の指が妙な動きをしている。
何かやっているのだ。
ただし、よほど注意深く観察しなければ分からない程度である。
おそらくこの場で、その動きに気づいているのは、俺と当人であるケルンだけだろう。
俺は顔をあげると、ナールス伯爵夫人に向かって話し始める。
「男爵夫人はこう申されています。まずナールス伯爵夫人のすべての債務を、ファーイースト・コーポレートが買い取ります。その上で、ナールス伯爵夫人をファーイースト・コーポレートの役員としてお迎えし、現在債務として抱えている金額と同額の年俸を毎年お支払いたします。これで、実質的に貴方が抱えている全ての債務は消滅し、それだけでなく翌年からは安定した収入まで補償されることになる。失礼ですが、この提案は伯爵夫人にとって非常に有利なご提案となると思いますがいかがでしょうか?」
今までさんざん不安を煽ってきたのも、この提案をするためであった。
本当は資金提供など青天井でいくらでも出来るのだが、そんなことをすれば相手に舐められておしまいになる。
ましてや、今は利用価値があっても、この先伯爵夫人に利用価値はない。
冷たいようだが、そもそも貴族という特権に甘えきっている連中に情けを掛けることができるほど、俺は甘い人間ではない。
とは言え、この提案は相当甘い提案だと指摘されたら、なんとも否定のしようがないことも事実であった。
強い態度で交渉している理由の一つでもあるのだが。
「その提案は……」
ナールス伯爵夫人は少し言いかけてやめる。
そして、もう一度改めて俺とナジュの顔を交互に見ると、指を軽く動かして背後に控えていた家令のケルンに合図を送る。
すると、すぐにケルンはナールス伯爵夫人の耳元で何かを小さく囁いた。
おそらくそれは、確認したのだ。ファーイースト・コーポレートにそれだけの資金力が存在するのかということを。