第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 14 - 慇懃無礼
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 14 - 慇懃無礼
俺はついに核心部分を話しながら、ナールス伯爵夫人の顔を見る。
さっきとは微妙な変化であるが、注意深く見れば明らかに変化していた。
一見ポーカーフェイスに見えるが、瞬きも極端に少なくなり、動きも殆どなくなっている。
不安を感じながらも、それを隠さなくてはという気持ちが漏れ出すように現れているのだ。
だが問題なのは、ケルンの表情である。
こちらは、完全なるポーカーフェイスである。
俺はそれを見て確信する。
やはりケルンはナールス伯爵夫人の表情に意図的に合わせているのだ。
自分の本心の現れではない。
背後に立った状態では後ろから見た感じと、伯爵夫人ならどう考えて如何に行動するのだろうかという推測によって表情を造っている。
そして、その推測は正しく、正確であるからこそ、ナールス伯爵夫人とケルンの表情の間に微妙な差となって現れている。
俺は話しの流れ的に不自然とは感じないくらいの若干の間を置いた後続ける。
「そんなことになったら、さすがに伯爵夫人と言えども没落は免れません。貴族の中での噂話は市井以上に早い。とても言いづらいことですが、宮廷に伯爵夫人の居場所はなくなることでしょう。領星の一つでもあれば、そこに引きこもることもできましょうが、今の貴方に行く宛はない。とても切羽詰まった状況なのでしょうね」
俺はまったく遠慮することなくはっきりと最後まで言ってやった。
普通、宮廷政治ではこんな乱暴なやり方はしない。
とても下品なやり方であるし、そもそも相手の手札が読めていることを当人に告げてしまうのは賢い人間のすることではない。
だが、それでもこんなやり方をしたのは、いくつか理由がある。
時間がないということも大きな理由であるが、もう一つ同じくらい重要な理由があった。
「何が言いたいのか、はっきりとおっしゃい」
俺のあまりに直接的な話に、聞き終わったナールス伯爵夫人は不快さを押し殺しながらも反射的に聞いてくる。
その時、背後にいるケルンの目に危険なものが感じられた。
俺はそんなことなど一切知らぬ体で、話しを進める。
「ご安心ください。そのために、我が主が罷り越しました。十分に伯爵夫人のお役に立てることと存じます」
俺はまた深々と頭を下げる。
我ながらなんともいやらしい態度だなと思いながらのお辞儀であった。