第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 13 - 確認作業
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 13 - 確認作業
ナールス伯爵夫人はうまく苛立ちを隠しながら答える。
「その年にご懐妊され、皇子がお生まれになられました。ところが、その翌年に皇子は亡くなられた。それから皇帝陛下の足は遠のき、ついにはまったくお見えになられなくなった。それに伴い、伯爵夫人の周りにいた貴族達も次々に離れてゆき、ついには誰からも顧みられない存在となった。運が悪いことに、所領として与えられた二つの星系では反乱が相次いだ。その責任を負った貴方は責任を取らざるを得なくなってそれまでに蓄えたすべての財産を手放さなくてはならなかった……」
俺が話したのは、宮廷に少しでも興味があるようなら誰でも知っているようなことであった。
ただ、おそらく直接本人に聞いたのは俺が初めてだったのだろう。
ナールス伯爵夫人の見せた表情は、なんとも表現しようのないものであった。
それこそ様々な感情が心の中で渦巻いているのだろうことは容易にさっしがつく。
だがさすがに魑魅魍魎の集まる宮廷の中を生き抜いてきた女怪である、こんなことくらいでボロを出すわけがない。
「遠慮なさらず先を続けてください」
ナールス伯爵夫人は至って落ち着いた声で俺の話を促した。
もちろん俺のこんな話しが聞きたいわけではなく、早く終わらせたいだけなのは俺でなくてもわかることだ。
俺はその催促に対してまったく異論はない。
「所領を失った伯爵家は最大の収入源が消えてしまい、さらには皇帝陛下のご寵愛も遠のかれ、これまでのように宮廷での影響力を維持することができなくなってしまった」
ここまでは、前振りであるがこの先の核心を予見させる話の流れになっていた。
実際、ナールス公爵夫人の表情はそろそろ強張り始めている。
一方、背後にいるケルンの表情はまったく変わっていない。
ここに来て、微妙な違いがでてきている。
俺は観察を続けながらも、何事もないかのように話しを続ける。
「今現在はまだ、他の貴族のつてを頼り借入を積み重ねることでどうにか今までの暮らしを維持しているが、それもそろそろ限界に近づきつつある。というのも、貴方様の宮廷での後ろ盾となっていたハイゼンベルク公爵がご病床につかれたからだ。大変なご高齢であらせられるハイゼンベルク公爵が再び公務に復帰することはまず考えられない。もし、このまま逝去することにでもなれば、貴方は完全に後ろ盾を失い、借入を増やすどころかそれまでに借りたすべての借入金の取り立てが始まることになる……」