第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 12 - 交渉開始
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 12 - 交渉開始
とは言え、すでにナールス伯爵夫人は俺の誘いを受けている、もう交渉を断ってこの場を立ち去るなど出来ることではない。
もちろんそれは俺も同じことなのだが。
「わかりました。お返事はこの場でいたしましょう。ただし、その答えがご希望に添えるものかどうかは補償いたしません」
ナールス伯爵夫人は、冷静を装ってはいるが腹の中は相当なものだろう。
「もちろんですとも。それでは、交渉の前に現在の状況を再確認させていただきたいのですが、よろしいですか?」
俺はナールス伯爵夫人の老いてなお美貌を保つ顔を見ながらそういう提案をする。
本来ならばすぐに提案に入ってもよかったのだが、ナールス伯爵夫人の背後に立つケルンの反応を見たくなったからだ。
というのも、ナールス伯爵夫人と同じような表情はしていたが、それ以上でも以下でもなかった。
つまり、丁度いい感じの反応に過ぎるのだ。
俺は、そこに喉元に刺さった魚の小骨のような感触を持った。
ただし、今現在としては、まだふわふわとした感覚なので、それをもっとはっきりとしたものにしたいと考えたのである。
「わかりました。それが必要というのなら、わたくしに異論はありませんわ」
笑顔でこそないものの、ナールス伯爵夫人は俺の提案を受け入れる意思を示す。
ケルンはただ控えているだけで、眉一つ動かさなかった。
さて……。
「申し訳ありません。私どもは所詮田舎貴族。皇帝陛下の近くにお使えしている伯爵夫人とは違い、帝星のことなど漏れ聞く話しばかり。失礼のなきよう、今一度確認しておきたかったのです。なので話す途中、色々とご無礼な発言もあるかと存じますが、何卒ご容赦してください」
俺はもう一度深々と頭を下げる。
実際に、これから俺はかなり露骨な質問を繰り返すつもりであった。
「お好きになさい」
さすがに俺の慇懃さが鼻についたか、ナールス伯爵夫人は突き放すように言った。
俺は軽く頭を下げるといきなり核心から話を切り出す。
「ナールス伯爵夫人におかれましては、長年皇帝陛下のお妾としてお使えしたと聞き及んでおります。その時最盛期に下賜された領星系がワレス・グランドラとワレス・アレンドラだったと記憶しておりますがその通りでしょうか?」
今度の交渉において、一切なんの関係もない質問であるが、あえて俺はここから入る。
「誰もが知っているようなこと。隠すようなことでもなし、その通り」