第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 11 - ケルン
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 11 - ケルン
「提案していた内容で進めることには問題ありませんが、若干の見直しをしたいと男爵夫人が申されております」
俺としては見直しをしようがしまいがどっちでも良かった。
これは交渉において優位を保つための提案である。
するとナールス伯爵夫人は俺をこの部屋まで連れてきた家令のケルンに目配せをして近くにくるように合図を送る。
俺がやったのと似たようなことをしようと言うのだ。
ただ違うのは俺の場合ナジュに一言も意見を求めてはいないが、ナールス伯爵夫人の場合だとケルンに助言を本当に求めているということだ。
もちろんその反応は予定どおりだったので、結論が出るまでゆっくりと待つ。
こちらに聞き取れないような声で、ナールス伯爵夫人とケルンのやりとりが続いていたが、ようやく俺とナジュに話しかけてくる。
話してくるのはナールス伯爵夫人でケルンは背後に控えているだけだ。
しいて言えば、ここらあたりも違う点である。
「分かりました。お話だけは聞きましょう。返答は後日ということでどうでしょう?」
話し合った結果は、至極無難なものであった。
俺が予測していた通りとは言え、とっくに没落していてもおかしくはない状況で長いこと貴族をやっていられるのはこの堅実さがあってのことなのだろう。
もちろんその辺りの采配をやっているのは後ろで控えている家令のケルンだろう。
俺は、ナジュから話しを聞く仕草をした後せいぜい控え目に話す。
「何卒、それはご容赦ください。おわかりとは思いますが、この場でお話することは、すべてこの場だけに留めおきいただきたい。そういうこともお含めおきいただいた上で、男爵夫人としてはこの場での返答をお求めになられております。ここは私の勝手な言ではありますが、このことは私どもだけでなく、そちらにとってもその方が都合がよろしいかと存じ上げます」
俺はそう言いながら深々と頭を下げ、覗き込むように目でナジュに合図を送った。
すると、さすがにナジュも空気を読んでくれて、俺と同じように頭を下げる。
頃合いを見て俺が頭を上げると、ナールス伯爵夫人も家令のケルンも苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
それも当然のことだ。
ひどく下手に振る舞ってはいたが、俺のやったことは単なる脅しだ。
正に慇懃無礼を地で行くやつである。