第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 10 - ナールス伯爵夫人
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 10 - ナールス伯爵夫人
主人に対してこれが出来るのは、信頼された家令の特権である。
俺とナジュが後に続いて入ると、とても高価な衣装とアクセサリーを身にまとった若干年をとった女性が出迎える。
「ようこそ、レーゼン男爵夫人。わたくしが、イレーネ・フォン・ナールス伯爵夫人です。お会いできて嬉しいわ」
本心はともかく、最も当たり障りのないのない挨拶をしてくる。
もちろんそんなマネなんてナジュに出来るはずがないので、俺が正面に立って対応することになる。
とは言っても、いきなり俺が話すのは非礼極まりない。
俺は一旦ナジュの口元に耳を近づけて、話しを聞いている振りをした後俺の口から話しをする。
もちろんすべて俺自身の言葉だ。
「このような形でご挨拶をするご無礼をお許しください。わたくしは、エルフリーデ・フォン・レーゼン男爵夫人です。以後よしなにお見知りおきを……と我が主が申しております」
俺の方もごく当たり障りのない挨拶に留めておく。
この辺りはお互いに定型文的なやり取りになることは承知の上の対応だ。
つまり問題となるのは、この後の対応となる。
双方とも時間がないことは分かっているので、いわゆる互いの腹を探り合うような貴族的な会話が続くことはない。
どちらが先に本題を切り出すのか、ということである。
「さっそくで申し訳ありません。どうしても、最初に確認しておきたいのです。先にご提案いただいた内容に相違はないのでしょうね?」
こちらから切り出す前に、ナールス伯爵夫人の方から先に本題に入ってくれた。
俺はナジュの口元に耳を近づけると聞いたふりをしてから答える。
「もちろんです。条件次第ではもう少し増額してもかまわないとレーゼン男爵夫人は申しております」
言うまでもないが、そんなことはナジュは一言も話していない。
「それはありがたいことです。それでは、すぐにでも話を勧めてもらいたいのですが、構わないですわね?」
まったく躊躇することなく、ナールス伯爵夫人が答えていた。
貴族としては非常に異例の対応で、かなり切羽詰まっていることが分かる。
まぁそれは俺も似たようなものであるが、わざわざそのことを相手に教える必要はない。
足元を見られるだけだからだ。
そして、俺はしっかり相手の足元を見て対応する。
わざとゆっくりナジュの顔に耳を近づけて話を聞くフリをしてから答える。