第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 09 - 到着
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 09 - 到着
誰が見ているというわけでもないが、ここから先はもう本番である。
ナジュは俺の指示に従って、ボソボソと口の中でつぶやいた。
ちなみにこれも、俺の悪口だった。
俺は案内人として、ナジュの先に立って導く。
いかにも格式ありそうな毅然とした雰囲気の建物で、ゴシック調の雰囲気に似た作りになっている。
中に入ると更に際立っていて、少し薄暗く作られたロビーには、高級そうな調度品がいくつも置かれている。
絢爛豪華というよりは、ひどく落ち着いた感じのする様式的な美しさで飾られていた。
「ようこそエルフリーデ・フォン・レーゼン男爵夫人閣下。長旅でおつかれでした。まずはお部屋にご案内いたしますので、ごゆるりとなさってください」
明らかに執事と分かる少し年配の男性が、俺とナジュを出迎えてくれた。
事前に到着することを伝えてはいたが、ドアマン付きだとは思わなかった。
今から会う貴族は、かなり厳しい財政状況に置かれている相手だからである。
これが民間企業なら、カットして当然の経費がカットできていない。
おそらくは自分の見栄を果たすためだろうが、この調子ではいくら金があっても足りないだろう。
もちろんそんな感想は一切口にも表情にすら出すことなくドアマンに案内されて建物内に入る。
すると、すぐにまた別の人物が頭を下げて俺とナジュの二人を出迎える。
「ここからは私がご案内いたします。男爵夫人殿下」
手荷物はないので、このまま役割は引き継がれることになる。
使用人の常として名乗りを上げることはないが、俺はこの男の事を知っている。
名前はケルン・アベル。これから会いに行く相手の使用人であり、俺の知るかぎり現在まで残る唯一の使用人である。
わざわざドアマンを用意したのは、おそらくこの男の手配だろう。
俺は案内する男の後ろ姿を値踏みするように見ていた。
立ち居振る舞いからして洗練されていて、身につけている物も高価過ぎないが、かと言って貴族の使用人として恥ずかしくないものである。
それなりに高齢のはずだが、見た目だけでなく立ち居振る舞いにも年齢を感じさせる所がまったくなかった。
屋敷とは言っても、街中のそれも通り沿いにある建物なので、それほどの広さはない。
三階まで階段を使って昇った後、階段脇にある部屋へと案内される。
ノックなしでケルンがドアを開いて、先に中に入る。