第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 08 - 打合せ
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 08 - 打合せ
まるで雛鳥だな、と思いながら俺は一階に降りて、正面に止まっていたリムジンの後部座席のドアを開いてやる。
さすがにナジュも俺が何を求めているのか分かったようで、黙って中に乗り込んだ。
俺は前方のシートに座る。
無人なので運転手はいない。
前方の席は使用人が乗り込むためのシートで、広いスペースの後部座席とは物理的に仕切られている。
ただ、確認することは出来るので、先に乗り込んだナジュが、目新しそうに手当たり次第至る所を触りまくっていることは確認できている。
目的地到着までは三十分ほど。
俺はこの時間を使って後部座席とのスピーカーを通して、後部座席にいるナジュに簡単なレクチャーを行う。
もちろん、すべてのことをナジュが覚えてくれるなどとは期待していない。
要するに、大まかな流れを掴んでいてくれたらそれでいいのだ。
どの道ずっと俺が一緒にいるのだ、その場での対応ならいくらでもできる。
簡単に説明が終わった後、最後に付け加える。
一番大切な部分で、さらに言うと俺がナジュに求めているのはこれだけだ。
「これだけは守ってくれ。誰であれ、絶対に直接話しかけるな。相手が君に何か話しかけてきたら、俺に耳打ちをしてくれ。俺が君の言葉として対応をするから、たまに軽く頷いてくれたらいい」
貴婦人の対応としては、けして珍しいものではないが、俺の目的とハリボテ隠しの両方に役に立つ。
非常に簡単な役割のはずなのだが。
「わーかった、まーかせて」
スピーカーから中々の大音量でナジュの声が聞こえてきた。
「全然まかされていないだろう。声は聞こえないように、なんなら口パクでもかまわない」
俺は即座にツッコミを入れる。
すると、
「…………」
スピーカーから聞き取れないようなボソボソ声が聞こえてきた。
俺にははっきりと何を言ったのか分かっていたが、普通のヤツには聞き取れない音量なのでよしとする。
ちなみにナジュが言ったのは俺の悪口だ。
「その調子で頼む。……さぁついたぞ」
俺が言ったすぐ後、リムジンは道の端に寄って停止した。
すぐに俺は降りて、後部座席のドアを開けてやる。
すると、ナジュが降りてきた。
黙って、道に立った姿は一端の貴族のご婦人様だ。
見てくれが良いというのはなんとも得である。
たとえそれが、ナジュであったとしてもだ。
俺はナジュに頭を下げて、話しかける。
「レーゼン男爵夫人閣下。ご案内いたします」