第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 06 - ナジュ輸送
第08話 宇宙英雄伝説02 ソーグ帝国政争編 - 06 - ナジュ輸送
どっちを選ぼうが、同じ結果にたどり着く、半ば詐欺的な選択であった。
ただ、こうしたことは大抵の場合効果的である。
中には、思いもかけない選択をしてくるとんでもなヤツがいるので、選択肢には注意する必要があるが。
「分かったよ。それじゃ、強制的に連れて行っておくれよ。あんたがあたいのことを抱いて運んでくれるんだろ?」
自分の足でついてくる、という一択のつもりの質問であったが、ナジュはなんの迷いもなくその選択肢を選んできた。
想定外という言葉があるが、まさにこの状況がそれであった。
労力的には苦でもないが、後々やっかいなことになりそうなのが見えるだけにたまらない。
とは言え、しかけたのが自分である以上、断ることもできない。
俺は無言でナジュを抱きかかえると、目的地の建物の屋上まで運んでやった。
帝星系内の建築物には、極めて厳格な制限がかけられており、景観を無視したデザインは許可されない。
当然、高層ビルのような建築物はなく、どんなに高くても五、六階が限度である。
俺がナジュを抱えて降り立った建物も、五階建ての建物で見てくれはバロック様式に近い。
屋上はあっても景観を楽しむための場所ではなく、メンテナンス用に作られた意味合いが強い。
なので、俺とナジュは誰にも見られることなく、建物内に入ることができた。
中に入ると、広くて長い通路がある。
右手は窓で左手には仕切られたいくつかの部屋があるような作りになっている。
通路にはいかにも高そうな調度品が一定間隔で置かれており、来客者の目を楽しませている。
そんな通路を横切って、俺はナジュを連れて一番おくの部屋の扉を開けて中に入った。
すると部屋の中には身なりの整った一人の男と、メイド服を着た三人の女が立っていた。
部屋中には沢山の婦人服が吊るされている。
「これはこれは、ようこそエルフリーデ・フォン・レーゼン男爵夫人閣下」
身なりの良い男は、ナジュの格好を見ても顔色一つ変えることなく、笑みを浮かべながら頭を下げるとすぐに他の女三人が動き出す。
「失礼致します、男爵夫人閣下」
ナジュが三人の女に取り囲まれたことを確認すると、俺はすぐに部屋を出る。
俺がこの場でできることはないので、この時間で自分の要件を果たすつもりであった。