第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 72 - ソーグ帝国へ
第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 72 - ソーグ帝国へ
白ハクはしばしの間があいた後、そんなことを言ってくる。
今のやり取りだけでも、それなりに必要な情報を得ることができたのだが。
せっかくなので遠慮なく言ってみることにする。
「他の英雄にも、お前のような監視役がくっついていることは知ってる。他の英雄に関する情報はどこまで提供できる?」
もちろんそれは、裏を返せば俺の情報をどこまで知られることになるのかということにもつながる。
「可能な情報はすでに全て渡したよ」
それが白ハクの答えであった。
まぁ、これは想定していたことだ。
俺がもらった情報もそうだが、バルベル号を急襲してきて存在を消滅させられた英雄もそうだったのだろう。
位置情報だけを元に襲ってきたから、返り討ちにあったのだ。
俺に関するなんらかの情報を得ていたなら、こんな無謀なマネができるわけがない。
直接対決では俺に勝てないことはすぐに分かるからだ。
それでもやって来たということは、俺に関する情報は相手に渡っていないということを意味する。
つまり、白ハクが言ったことは、俺の推測を裏付けるものであった。
さて、次の質問が本題だ。
「勝利条件はなんだ?」
今更かと思うような質問であったが、俺は一度もそれを聞いていない。
あの部屋で言われたことは、戦って勝利するというものだった。
死をもって勝利条件とするなら、存在そのものを消してしまうペナルティは勝利条件そのものの否定に繋がりかねない。
戦いがあった事実が消滅してしまうからだ。
英雄と呼ばれた連中の中でだけは存在が消滅していない、ということもまたおかしな話だ。
存在していない者が、影響を与えているという話になるからだ。
それは物理現象という、宇宙が存続するための絶対条件を壊してしまうことにも繋がりかねない。
もちろん限定条件を付けることで影響が波及することを回避しているが、なぜそこまでして消滅にこだわるのかという話である。
ペナルティが普通の死であれば、何もかもがすっきりと片付くはずなのである。
つまりこの戦いは、死をもって決着するようなものではないのだという結論に達する。
この疑問は、英雄によるバルベル号急襲と、それに伴うペナルティの実行、そしてその後の結果を確認して生じたものだ。
そして、英雄たちを戦いの場に放り込んでおきながら、その情報を最小限しか与えていない。
それは先程質問したことで確認が取れている。
さらに言えば、どういった戦いを望んでいるのかも極めて不透明のままである。
そうした中で、このタイミングで俺はことの本質である質問をぶつけてみたのである。
ただ、俺はすでにこの質問に対して、白ハクは答えないだろうという確信を持ってはいたのだが。
「……なんでも言いなよ。ボクに可能なことならなんでもするよ」
白ハクはしばしの沈黙の後、そんなことを言ってきた。
俺の質問は、振り出しに戻ったということである。
おそらく何度質問しても、白ハクは同じことを繰り返すだけだろう。
なので俺は、質問を変えてみる。
「どうすれば、俺が勝利したと判断できる?」
さすがにこの質問に対しては答えざるを得ないはずである。
そうでなくては、このゲームそのものが成立しない。
「キミが勝ったら、その時ボクが教えるよ。それもボクの役目さ」
この解答で、やはり俺が考えていた通り、連中は最初から勝利条件を闘っている当人である英雄達に教える気がなかったのだということが分かった。
「わかった。とりあえず質問はそれだけだ。消えてくれ」
俺はここで質問を終える。
質問するという行為は、俺が情報を得るだけでなく、俺が何を考えているのかという情報を相手に与えることにもなる。
タイミングを見て、最小の質問で済ませるのが鉄則である。
敵が手強い相手である場合には特にだ。
俺が告げると、白ハクは何も言わずに姿を消した。
もちろんいなくなったわけではない。
気配もつかめないし、姿も見えないから分からないが、常に俺とナジュを監視しているはずである。
それも白ハクの役割だからだ。
なんにしても、当面は連中の掌の上で踊る必要があるだろう。
全貌が見えたら、すぐに掌ごと踏み潰してやるつもりでいるが。
ナジュが錬金を行っている間にできた時間で、やっておくことがある。
この世界の文字を覚えるのだ。
せめて一人でコンソールを操作できるくらいにはならなくては、この先不便でしかたない。
俺はそのための学習用ツールをナジュに話して用意してもらい、一人取り組み始める。
英語を覚えるだけでも四苦八苦している俺なので、気が遠くなりそうなのだがやるしかなかった。
最低限、ソーグ帝国内での活動を始めるまでには、文字くらいは一通り覚えておくことが必要である。
俺はこの宇宙にやってきて、初めての絶望感を味わいながら、コンソールと向かい合ったのだった。
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