第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 59 - 英雄達
第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 59 - 英雄達
男爵の爵位はあるが、典型的な没落貴族で、軍に入ったのは純粋に食べるためであった。
帝国宇宙軍大学の戦略科を中間くらいの微妙な成績で卒業していたが、艦隊戦の模擬戦闘では一度も負け知らずで卒業している。
恒例になっているラートラ共和国討伐遠征に、毎年志願していて艦隊幕僚付きの参謀となっていた。
他の帝軍大の卒業生は一回遠征に参加した後は本部付きの出世コースに乗るのだが、階級も准将のままで未だに参謀長という役職であった。
軍内部では変わり者として知られている存在らしかった。
それが旗艦の艦橋部分が突然吹き飛ぶという事故に合い、他の参謀共々いなくなったために、後を引き継ぐことになったわけだ。
そのおかげで、艦隊はあわや完全勝利を得そうになったが、最後の最後で勝利を取り逃がした。終わってみれば微妙な戦果になってしまったわけだが、本部がどういう判断を下すのか見ものである。
一方ラートラ共和国艦隊の方は若干事情が違う。
現在臨時に総司令官を努めているのは、カーライル・ダフル中将である。
現在79才のダフル中将は本来なら引退していて当然の年齢だった。
ラートラ共和国艦隊にも高齢者がいてしかも最前線で闘っているというアピールが必要だった。
全ては政治家の介入によって、高齢者対策をアピールするためであった。
だが、さすがに総司令官を務めることには無理があるということで、総司令官は普通の共和国軍大学を首席で卒業した官僚エリート的な男が採用された。
その結果、初めて本格的な艦隊戦をやったあげくに、敵の作戦にみごとにひっかかり、信じられないほどの愚策をやってのけて、あわや艦隊が全滅の危機にさらされた。だが、突然の急死によって総司令官の役職から退いた。
そこで79才のダフル中将が、自動的に艦隊総司令官へと就任することになったのである。
だが、ダフル中将は高齢であるが、前任者と違って愚かではなかった。
艦隊戦が始まる前に抜けられぬ消耗戦になることを予想して、作戦案を立案していた参謀がいたことを知っていたのである。
それが、リン・コウネ大佐である。
そこでダフル中将は異例なことに、リン・コウネ大佐の階級を臨時的に一階級引き上げて准将に抜擢し艦隊総司令官へと任命したのである。