第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 52 - 回廊へ
第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 52 - 回廊へ
ソーグ帝国艦隊もラートラ共和国艦隊が下がるのにタイミングを合わせてひいていた。
現在双方の艦隊は、回廊外の両サイドで隊列を整えつつ睨み合っている状態だった。
つまり、回廊の中には探索用プルーブが展開されているくらいで、ほぼ戦力が存在していない状況にあるということだ。
そして、当面大規模な艦隊戦が再開されることはないだろう。
これは、俺たちというか、バルベル号にとって実に好都合な状況であった。
「ナジュ。見つからないように、回廊に入り込めるか?」
おおよそ、なんと答えるのかは予想がつくが、それでも確認だけはしておく。
「あたいを誰だと思ってんのさ? 楽勝だって」
予想通り自信に満ちた返答であった。
「そうか。それなら、すぐにでも向かった方がいい。今なら残骸をあさり放題できるぞ」
俺は若干弱めに指示をだす。
この女は、あまり強めに言うと考えなしに反発するので、微妙な言い方を心がけたほうが話しは早く進む。
まぁ、鬱陶しいことではあるのだが。
「わかったよ。それなら、早い方がいいね」
根が単純なだけに、機嫌をそこなわなかったら何も考えずに実行してくれる。
こういった所は、ナジュの数少ない長所の一つだろう。
「それと、情報が欲しい。撃沈された艦艇の情報端末から、これまでの作戦行動の記録を引っ張り出せるか?」
俺はあればいいなぁ的な、若干余裕のある質問をする。
「おう。艦隊がいないんでしょ? そんなの楽勝じゃん」
自称人生の大半が楽勝なナジュが答える。
「これに関しては、無理する必要はないからな。適当な所で引き上げるぞ」
俺は一応、優先順位が低いという忠告はきちんと伝えておいた。
「だから、楽勝だって。そんな心配は無用だってばさ」
ナジュは自身ありありな感じで答えていた。というより、俺の忠告なんてまともに聞いちゃいないのだろう。
まぁいい。
いざとなったら、どのみち俺が対応しなければならないのだ。
出たとこ勝負でいくしかない。
ナジュはクレアル海を避けて、回廊に進入する。
「あらら。なにこれ、探査プルーブだらけじゃん。あたいじゃなけりゃ、すぐに発見されてるところだよ」
自慢げにナジュは言ったが、これに関してはけして誇張ではないだろう。
岩石や撃沈された戦艦の残骸を巧みに利用して、プルーブに発見されることなくナジュは回廊の中心部へと向かって航行を続ける。