第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 50 - 本題
第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 50 - 本題
俺は捕捉説明をしておくことにする。ここはとても大切なところだからだ。
「存在が消えるということは、そいつがやった行為の全てがなかったことになるということだ。つまり、バルベル号は襲撃された事実は消えてなくなる。そもそもその存在を知らないわけだから、記憶が残ることもない。襲撃されていないのに、バルベル号のハイパードライブ・エンジンが破壊されているというのはおかしいだろ? なのに、君や俺は襲撃さたことを知っていて、ハイパードライブ・エンジンは今も壊れたままだ。どうだ、おかしいとは思わないか?」
俺はもう一度、子供でも分かるように心がけながら説明してみる。
「おっ? なんだ、そういうことか。それならそうと、早くいいなよ。うんうん、おかしいね、それはおかしいよ」
どうやらナジュもようやく分かってくれたようだ。
それにしても疲れる。
そして、これでようやく本題に入ることができそうだ。
「わかってくれたようでなりよりだ。とりあえず、その疑問を覚えておいてくれ」
俺はナジュが頷くのを確認してから、話を先にすすめる。
「それでは、それに付け加えてもう一つ。襲撃してきた英雄の母船と無人機が消滅したのは、君も確認したはずだ。これは、禁止事項に触れた英雄の存在が消された結果だ。そうなると、とんでもない矛盾が生じているだろう?」
さすがにこれには気づくだろうな、と思いつつ一応確認の質問をしてみる。
「ムジュン? ああ、矛盾ね。矛盾矛盾……あたいも、なんとなくそうじゃないかと思ってたよ」
俺は若干ナジュのことを舐めていたのかも知れない。
これは、さっぱり分かってる様子が見られない。
また、子供でも分かるバージョンで説明し直す必要がでてきたようだ。
「ひとつずつ考えてみよう。まず、襲ってきた英雄の存在が消されたことは間違いない。つぎに、存在が消されたはずなのに、俺たち……他の英雄にとっては存在が消滅したというわけではない。この事実が矛盾に見えているわけだが、ゲームを成立させるためには当然のことだ。参加している英雄から他の英雄の記録や実績が消えてしまっては、そもそもゲームが成立しなくなる。勝敗の結果そのものが消えることになるから当然なわけだが。だが、問題なのはそこではない。注目すべきは禁止事項に違反しているのに、すぐには動かなかったという事実だ。つまり、このゲームを仕切っている連中は、禁止事項に触れることに対してペナルティを課す。だが、他の英雄を襲うことを阻止することはしない。実際にやらせておいて、結果が出てから存在を消した。事実だけを見るとそういうことだ。そこから何が見えるのは、まだこれから突き止める必要がある。ただ、禁止事項は公正な戦いをさせるためにあるのではないということは、常に意識しておかないとまずいだろうな」