第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 32 - 艦隊戦
第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 32 - 艦隊戦
「悪いな、休むのは後だ。想定していたより、展開が早いようだ。すぐにでも動く必要がある」
俺が作った回廊ではソーグ帝国艦隊とラートラ共和国艦隊による大規模な艦隊戦がすでに開始されていた。
双方とも回廊突破を目標として、楔形隊形をとり艦隊を同士が正面からぶつかりあっている状況であった。
その結果、いきなり総力戦が展開されることになり、当然の結果として盛大な消耗戦が展開されることになっている。
これはいうなれば消しゴム同士の削り合いなので、先に無くなった方が負けという戦いである。
勝とうが負けようが関係なく、多大の損害が出ることになる。
もし戦力が拮抗していたなら、双方とも消滅してお終いになるだけだ。
当然この戦いの不毛さに両軍とも気付いているだろうが、敵前でいきなり撤退を決行するのは自殺行為である。
今の状況は双方とも、一旦引いて体制を立て直したいと考えているが、それができない状況に陥っていた。
もちろん放置するという方法もあるが、今の状況で双方共倒れになってもらうのは都合が悪かった。
まだ当面の間、両艦隊にはこのクレアル海で戦っていてもらう必要があったからである。
「すぐにって、またあれやるの? あたい、疲れてんだけど?」
さっきはあんなにノリノリだったくせに、ひどく不機嫌な声を出してナジュがごねる。
「いや、その必要はない。この場所から一光年ほど離れてくればいい。後は俺がやる」
さっきは、クレアル海に潜る必要があったから連れて行ってもらったが、通常の宇宙空間なら自力で動いた方がやりやすい。
「へぇ? それでいいんだ。そのくらいなら、あたしだってやぶさかじゃないよ」
なんとなく安心したような雰囲気でナジュが答えた。
理由とか、何をするのかとかいう話をしないのは、面倒くさいからなのだろう。
俺としても手間が省けて助かる。
「そんじゃ、いくよ」
コンソールをナジュが操作したとたん、バルベル号はハイパードライブへと移行する。
重力推進と違って、ハイパードライブが作動すると加減速にともなう慣性を感じることができる。
ただし位相空間に質量をシフトするまでのことだ。
光の速さを超越するためには、壁とされるものを位相空間に移す必要があり、その瞬間から物理現象は一部変容することになる。
もちろん、特殊相対性理論で知られる物理現象も含めてだ。