第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 31 - リン・コウネ大佐
第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 31 - リン・コウネ大佐
元々数の揃っている艦隊ではないため、包囲戦をやるとどうしても陣形の薄い場所ができてしまう。
それを見抜いての突撃だった。
あっさりと陣形を突破されたマジェク艦隊は、陣形を変えつつ一旦後ろに下がる。
その瞬間を狙っていたコウネ大佐の指揮するラートラ共和国艦隊は、一気に撤退を始める。
マジェク艦隊としてはその後背を攻めたいところだが、陣形を突破した艦隊がほぼ無傷の状態で存在しているので、深追いはできずに敵の動きに合わせて艦隊をさらに引いた。
ラートラ共和国艦隊はそのまま本格的に撤退を開始し、マジェク艦隊は本格的な戦闘は避けつつ、見送るようにエルミシウム銀河の果まで追撃を行った。
こうして、ソーグ帝国とラートラ共和国の間で行われた、第一次銀河間戦争は集結する。
双方に多大な損害をもたらした戦いであったが、これから先は、五百年に及んで繰り返し戦争が行われるようになる。
まぁ、だいたいの所、これがソーグ帝国から見た二国間に起きた歴史の流れであった。
もちろん、この歴史は戦争を中心に見ていて、その時の政権の動きなどは一切無視している。
この二つの国の歴史にどっぷりと関与するつもりはない。
俺をここに飛ばした連中の目的がなんであるのか知るには、なぜ英雄にならなくてはならないのか。そして、彼らの言う英雄というのが何を指しているのか、それを知る必要があった。
だから、このソーグ帝国とラートラ共和国という、二つの銀河を支配する国の歴史の中で英雄として登場した人物について調べたかったのである。
まだ片方の歴史の概要にすぎないが、おかげで随分と色々なことが分かってきた。
なにより重要なことは、この五百年に渡り英雄とみなされるような人物は歴史の表舞台に登場してきていない。
このことが関係していないとは、どうしても考えづらかった。
ここら辺りは所詮憶測なので、これ以上突っ込んだ思考をしても意味がない。
「ねぇ、あたい疲れたよ。いい加減やすもうよ」
ソーグ帝国側の戦史を中心とした略史を確認し終わり、一段落ついたと見たナジュが音を上げている。
「ラートラ共和国側の歴史も確認しなけりゃならんが……後回しにした方がよさそうだ」
俺は気をさぐりつつマップを確認しながらそう言った。
「よかった。さすがにあたいも疲れたよ」
シートにへたり込みながらナジュが言う。