第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 21 - 戦略論
第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 21 - 戦略論
「ソーグ帝国艦隊とラートラ共和国艦隊。二つの戦力は互いに地理的な要衝であるクレアル海を巡って戦っていた。ただし、クレアル海そのものが障壁となり、どちらも十分な戦力を敵の支配する宙域に送り込めずに一進一退を続けていた。そこに、俺が回廊を作って艦隊を送り込めることを可能とした。つまり、この回廊の制宙権を確保した側が敵に対して圧倒的に有利な立場に立つことが可能となるということだ。だから、双方の艦隊はほぼ同時に新たに出来た回廊へと侵攻を始めているはずだ」
もちろん、軍艦でもないこの船に、そんな情報を知る手段はない。
だから曖昧な言い方をしたのだが、俺自身は気を探っているのでそのことを確認できている。
もちろんそのことを伝えたところでナジュには理解できないだろう。
俺と同じような修行をやって、それなりの実力を身につければ話は別だが、今はそんなことは無理だしやる意味もない。
「へぇ、そうなんだ」
関心したっぽい雰囲気でナジュが答えるが、そんなものは見かけだけ。実際には何も理解してはいないと思う。
俺は最初から期待していないので、かまわず話を先にすすめる。
「これからすぐにでも、これまでにはない本格的な戦闘になるだろう。もちろん、戦いは一度では終わらない。どちらかの陣営に、傑出した才能を持った軍師がいれば話は別だ。だが、平時に近い環境でそんな傑出した才能が、艦隊の作戦指揮を任せられているとは思えない。おそらく、初戦はどちらも壮絶な消耗戦になるだろう。正面切って殴り合えば、そうならざるを得ない。それは、それまではまったく出番の無かった英雄たちに多くのチャンスをもたらすことになる。今はまだ不遇の中でしかたなく闘いに参加しているのだろうが、消耗戦が続けば無能な指揮官はいなくなる。戦死するか、それとも更迭するか分からないが、有能な軍人が上に立つことになるだろう。そうならない可能性も当然あるが、その場合だと国そのものが滅ぶことになるので、考慮する必要がない。当然、遅かれ早かれ、他の英雄達がそれなりの実力の持ち主なら、頭角を表してくることになる。あるいは新たなる王朝を樹立するところまでいくかもしれないな」
俺はここで一旦言葉を切った。