第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 19 - 回廊
第08話 宇宙英雄伝説01 クレアル海回廊会戦 - 19 - 回廊
星系を破壊可能なエネルギーの奔流が、左右直線状に伸びていく。
その途中にあったすべての岩石やメタンの海が消滅していく。
俺は、すぐにフェイズシフトを段階的に下げながら、バルベル号へと戻った。
エアロックに入ると、俺が話す前にナジュの方から先に話しかけてくる。
「な、な、なんなんだよ、今の?」
エアロックが閉まるのを確認しながら、俺はその質問には答えず指示を出す。
「いいから、今すぐこの宙域を離脱しろ。すぐにこの宙域は戦場になるぞ」
その言葉と同時にバルベル号は機動を始める。
さっきと同じように常軌を逸した機動をやっているが、俺はノーマルには戻らずフェイズ1の状態を維持していたので普通に動き回ることができる。
メタンガスが全て排出されて、船内の空気で満たされるとすぐに宇宙服を脱いでコックピットに向かう。
すると、中は宇宙になっていた。
俺はすぐに今何が起こっているのかの説明を始める。
「俺は今クレアル海に回廊を作った。それまでクレアル海に潜って、少数の戦闘艦による小競り合いが続いていたが、艦隊が運用可能な大きさの回廊が出来たことで、これから先は戦略が一変するだろう」
俺の言葉に対するナジュの答えは。
「わりぃ、後にしてくれ。今手を放せねぇ」
というものだった。
さすがにこれは、俺の方が悪いので肩を軽くすくめて黙って待つことにする。
体感時間で三十分ほど過ぎた頃、クレアル海からの離脱に成功する。
潜る時より短時間で脱出できたのは、潜ってきた時の航路を逆に辿ることで岩石の状態を把握できていたからだ。
とはいっても、それを実際にやるというのはまともな人間に出来ることではない。
変態的とも言える操縦技術を持ったナジュでなくては無理だろう。
少なくとも俺には逆立ちしても出来ることではない。
全天モニターが切られて、通常のコックピットに戻ると俺の方を見てナジュが話しかけてくる。
「それで、なんだっけ?」
聞いてないことは確信していたので、その言葉は予想通りのものであった。
「落ち着いて話したい。椅子とかはないか?」
俺が話しかけると、
「あっ、そういえば、自分のシートしか出してなかったや。メンゴメンゴ」
そう言いながらナジュがコンソールに触れると、俺の前にイスが現れる。
どこからか持ってきたのではなく、床がイスの形に変化したのだ。