第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 69 - 帰還
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 69 - 帰還
今超高速で記憶を引っ張り出そうとしているが、どうあがいても心当たりがまったくなかった。
そもそも、あれだけの美少女となんらかの関係をもっていたなら、忘れたくても忘れようがない。
そんな俺を見て、カガトが言う。
「これから先、ご縁が切れるわけでもなし。いくらでもお会いできる機会もあるでしょう。もちろん、ユイさんを含めてですが。……というわけで、目的地に到着しましたよ」
イケメンCEOは、爽やかな笑顔を閃かせながら俺にそんなことを言ってくる。
なんだか手のひらの上で踊らされている気分がして気に入らないのだが、今の俺にはそんな余裕はなかった。
正直な話、受験勉強もあまりうまく行っていないのに、この上頭が痛くなるような問題を抱えてどうしろというのだろう。
と言っても、悩めばどうにかなるような問題でないことも確かだ。
とりあえず、俺は降りる。
まったくもって、転生してからこっち、女関係の悩み事が増えているような気がするのは、気の所為ばかりではないだろう。
「今日は、本当に色々とありがとうございました。もちろん、こんな言葉だけですまされるようなことではありませんが。そのうち、正式な謝礼はさせていただくつもりです」
降りた途端、カガトは政府役人的な顔になり、そんなことを言ってくる。
本心を言えば、言葉だけですませて欲しかったが。
ただ、そうも行かない事情が出来てしまっている。
もしかして、そのつもりで俺にユイの話しを聞かせたのだとしたら、このカガトというイケメンはとんでもない策士ということになる。
俺は俺で公式的な対応に徹しておくことにした。
さすがに、これ以上プライベートに踏み込まれるのは良い気がしない。
「一年後の対策に関して、すぐにでもマドゥフ政府と正式な交渉が行えるよう対応しておきます。両国の関係は、これから先良好なものとなることでしょう」
実際には、マドゥフ政府というのは魔王ゼグルス本人のことだが、さすがにこのままだとまずいので、俺がカージにやったように、ここルートワースで優秀な人材をヘッドハンティングすることになるだろう。
その辺りの対応は、何でも屋になりつつあるリベン法律事務所に任せることにする。
もちろん、魔王ゼグルスには一度直接俺が会いにいかなくてはならないだろうが、そのくらいのことなら特に問題ではない。
「重ね重ねありがとうございます。ではまたお会いしましょう。今日はゆっくりと体を休めてください」
カガトが握手を求めてきた。
俺はその手を握り返しながら答える。
「残念ながら、学生としての本分が残っていますので、そういうわけにもいかないんですよ。ですが、お気遣いありがとうございます。それでは、失礼いたします」
俺は笑顔をつくり形式的な答えを返して、カガトと別れる。
確かに、今日という一日とても色々あった。
でも、まだ終わったわけではない。
というより、俺にしてみればようやく雑用が片付いただけなのだ。
まぁ、頭を抱えるような問題が新たに発生したが、そのことを悩むのは今はやめておく。
いそいで帰ろう。
今ならば、誰にも邪魔されずに受験勉強ができるはずだ。
俺はもう随分と通り慣れたゲートポートを通って、日本へと帰還した。
<第07話 了>