第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 61 - ワルキューレ☆ハートステージ
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 61 - ワルキューレ☆ハートステージ
沸き立っていたドーム内からざわめきが消え、完全なる静寂が訪れた時。
暗闇の中で、美しくも優しい女性の歌声が聞こえ始める。ユイの声だった。
まるで鏡面のような水面に一滴の清水が落とされた後、その波紋が池全体に広がっていくように、歌声はドーム全体に広がる。
その歌声に観客が飲み込まれそうになったとき、新たな歌声が重なる。
波紋は一つから二つに増え、水面は少し複雑に、より美しい波紋によってその装いを変え始める。
もっと聞いていたいと思い始めた頃、水面に新たに三つの波紋が広がった。
完全なる調和と、美しい響きが最高潮に達したとき、突然ステージにライトの光が満たされる。
踊ってはいなかった。
なんのアピールすらもしていなかった。
ステージ上に立つ五人、ワルキューレ☆ハートのメンバーがやっていたのはただ歌うことだけ。
楽器は一切登場せず、五人のメンバーの持つ最高の声だけが、彼女たちの唯一の武器。
この時、会場全体が静まり返っていた。
自分が立てる息の音すらも、騒音に聞こえてしまう。
観客は何も出来ない。いや、したくない。
ただ聞いていたい、この美しい5つの歌声が生み出す旋律の中にただ身を任せていたい。
願うのはただそれだけだった。
永遠も、一瞬も、この時の観客には区別ができなかったことだろう。
すべての観客から時間の感覚が消失してしまっていた。
そして唐突に、歌声は一つに戻る。
美しいハーモニーが、ただひとつの歌声になった後も、何一つとして色褪せない。
また別の魅力に入れ替わるだけ。
ただ一つ、無意識のうちに永遠を望んでいた観客の心に、終わりの予感を忍び込ませていたが。
そう、始まりにはかならず終わりがある。
その事実を告げていたのだ。
たとえ観客全員が永遠を臨んだとしても、終わりの瞬間は訪れる。
突然、ステージを照らしていたライトが消え、再びドーム内に闇が戻る。
最後に残ったのは、ユイの歌声。
ただ一つの歌声は、観客全員の心を掴んだまま静かに中へと消えていった。
そして、再びドーム内に明かりが戻っても、これだけ巨大なドーム全体が、静寂に包まれたままであった。
誰ひとりとして声を出そうとはしなかったからだ。
そんな中に、司会が登場する。
とても、気の毒に感じるほど違和感があった。
今のこの調和を乱す、そんな存在に感じられたからだ。
そのことは、司会自身が一番感じていたことではないだろうか。
だが、これは仕事であった。