第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 57 - ワルキューレ☆ハートのセンター
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 57 - ワルキューレ☆ハートのセンター
だが、そから先にユイは踏み出さなかったし、俺も踏み出すことはなかった。
「さぁ、個人的な時間はここまでです。ここからは、ワルキューレ☆ハートのセンターとして話します」
すっと俺の横を通り過ぎると、ユイは俺に背を向けたまま話す。
「ラストステージ、ワルキューレ☆ハートは結成以来最高のステージをお見せいたします。それが、私達が貴方にできる唯一のことだと思うから。ですから、はちみつパンプキωも限界を超えるようなステージで挑んで来てください。それ以外にはちみつパンプキωはワルキューレ☆ハートに勝つことはできないでしょう」
本当は、それを告げるために来たのかも知れない。
だとしたら、なんとも光栄なことだ。ワルキューレ☆ハートがはちみつパンプキωのことをライバルとして認めたということだから。
「むろん、そのつもりです」
俺は短い言葉ではちみつパンプキωの決意を告げる。
これから始まるラストステージは、マスター・オブ・クイーン・コンテスト史上最高の闘いになることだろう。
俺はそう確信していた。
どちらが勝つにしてもだ。
ユイは、そのまま去っていった。
俺が背を向けている間、真っ直ぐに。
ユイの気が遠ざかったのを見計らって、俺もこの場所から出る。
そのままはちみつパンプキωの控室には戻らずに、観客席にある自分の席に向かった。
ユイにはああ言ったが、わざわざ俺が伝えずとも、はちみつパンプキωのメンバー全員がわかっていることだ。
彼女たち全員が、ずっとワルキューレ☆ハートを超えることを目標として限界に挑み続けてきたのだから。
席に戻るとすでに斉藤もカージも自分の指定席についていた。
「おまえ、今まで何処いってたんだよ? またいなくなったかと思ったじゃねぇか」
俺の姿を見るなり斉藤が言ってきた。
「すまん、少し人と会ってた」
俺は今度は正直に話す。ここまでは。
「誰なんだよ?」
斉藤は当然のことを聞いてきた。
もちろんそんなことを話せるわけがない。
「お前とちがって、俺にはこっちの世界にしがらみってやつがあるもんでな。まぁ付き合いってやつだ」
話を濁しながら、遠回りに説明しておく。
「なんだよ、えらくおっさんくさいこと言いやがって」
斉藤はひどく不満たらたらで言ってくるが、もちろんそんなものに一々応じる必要はないだろう。
ということで、俺は話をそらすことにした。