第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 56 - 距離感
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 56 - 距離感
しかもそれを相手に悟られずにやってのけられる自然さも持っている。
これがワルキューレ☆ハートでセンターを張っているユイという人物の凄さなのだろう。
ただのアイドルとは明らかにモノが違った。
はちみつパンプキωは、こんなのと今から闘わなくてはいけないのだ。
俺は内心の複雑な気持ちを押し隠して、わざと強めの言葉をぶつけてみることにした。
ユイがどんな反応をするのか見てみたくなったのである。
「私に礼は必要ないと大統領閣下にはお伝えしたはずなのですが、伝わっていなかったでしょうか?」
俺はユイが顔を上げたタイミングでそんな言葉を言ってみる。
言ったこと自体は本心である。
ただ、普段ならこんな場で言うことはまずしない。
喧嘩を売るようなものだからだ。
さて、この言葉にユイはどんな反応を示すのだろうか?
まさか、そんな気持ちを読み取ったというわけでもないのだろうが。
「ふふっ。まだそのお年なのに、ずいぶんと意地悪ですのね。それとも、少しはわたしに興味をお持ちになられたのかしら? もしそうなら嬉しいですわ。でも、一つだけお忘れですわよ。わたしは、今ユイ個人として来ていると言いました。つまりこの御礼は極めて個人的なものです。さすがに、そこまではお咎めになられないでしょう?」
みごとな返しだった。
ぐうの根も出ないというのはこのことだろう。
「いや、すみません。失礼しました。ちょっとした好奇心といったところです。謝罪しますので、お受けいただけるとありがたい」
俺は素直に白旗を上げる。
ただ、降参してもまったく嫌な気持ちにはならなかったが。
「もちろんです。でも、本心ではとっても嬉しかったですわ」
ユイは軽く俺の謝罪を受け入れた上で、なにやらやたらと気を持たせるような言い方をしてくる。
「それはどういうことですか?」
俺は無意識のうちに反射的に訪ねていた。
すると、ユイは一歩大きく踏み出して、俺の目の前まで近づいてくる。
身長はほぼ俺と同じなので、本当に顔がくっつきそうだ。
改めて考えたら、この時ユイはヒールを脱いでいた。つまり、この構図は意図的だったのだろう。
もっとも、この時の俺にはそんなことは考えつかなかったが。
「わたしのことを考えていてくれている殿方がいる。そのことを、ユイは嬉しいと思った。そういうことです……」
俺のすぐ目の前で、ユイは微笑んでいる。
さらに意味深な言葉を口にして。