第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 55 - ユイ再び
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 55 - ユイ再び
ある程度近づいたところで、彼女は俺に背を向けて歩き始めた。
おそらく、後をついてこいということなのだろう。
俺はそう察して、一定の距離を保ちつつ彼女の後をつけて歩く。
すると彼女は複雑に入り組んだ細い通路に入っていく。
さらに進み、彼女は俺のことを人のいない方へと誘導していく。
そして、ついに行き止まりになった。
周囲にはまったく人影がない。
気をさぐってみても、少なくとも十メートル四方に彼女以外の気は感じられなかった。
「いいんですか? ワルキューレ☆ハートのセンターがこんなことをして」
まずは俺の方から話しかけてみる。
誘ってきたのは向こうだが、こういったことは男の俺から話した方が会話がスムーズに進む。
「だから、ここにお誘いしましたの。はちみつパンプキωのプロデューサーさん。でも、ルートワースの救世主とお呼びした方がいいかしら?」
彼女こそ、開会式の前に出会ってその正体を知らないまま別れてしまった、ワルキューレ☆ハートのセンター、ユイであった。
「そのことは関係者以外は誰も知らないはずなんですが?」
俺はユイに言われて苦笑を浮かべながら確認を取る。
「確かにその通りです。関係者以外にこのことは知りません」
笑顔でユイが答える。
つまりは、そういうことなのだ。
ユイもしくはワルキューレ☆ハートが『ドラゴン』対策プロジェクトの関係者であるということである。
「なるほど。だったらおわかりとは思いますが、当面の脅威は去り、絶望的な状況は回避されました。ここから先、私に関わっても良いことはありませんよ?」
俺は意図的に突き放すように言う。
「あら、それで終わるとお思いですか? ルートワースに存在する組織は政府関係者ばかりじゃないのですよ? でも、それはまたの機会に。今はユイ個人とて来ています。お礼を言わせてください、ルートワースをお救いいただいてありがとうございました」
そう言うと、ユイは深々と頭を下げる。
いきなりお礼を言われたことにも驚いたが、それ以上に頭を下げられたことに驚いた。
というのも、ルートワースにお礼を言うとき頭を下げるという文化は存在していないからだ。
ということは、わざわざお礼を言うために俺の故郷である日本の風習を調べたということになる。
それなりの時間はあったにしても、今は闘いの真っ最中である。そこまでするのか、とある種感動のようなものを感じた。