第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 23 - ワルキューレ☆ハート
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 23 - ワルキューレ☆ハート
美しい容姿とこの美しい歌声。
そう、彼女こそがワルキューレ☆ハートのセンターを務めるユイである。
最初のパートを歌い終えたところで、一人のメンバーがユイの右隣で止まった。
そして、入れ替わるように歌い始める。
いつの間にか作動していたコンソールに、ヒビキという表示がされていた。殆どの観客は分かっているのだろうが、俺にはとてもありがたい。
ユイとはまったく違う声質だが、ヒビキの歌声もまた遜色のない心地よさを観客に与えている。
ヒビキが1パート歌い終えたところで、次のメンバーがユイの左側に来て止まった。
コンソールにはマリナと表示されている。
一番高音の声音で、ソプラノ歌手とほぼ同音程の声質を披露した。
マリナも1パート歌い終えたところで、次のメンバーがやってくる。
位置はユイの右隣にいるヒビキの右側。
マリナより声は若干低く、一番女性らしい音域であった。
コンソールの表示にはシヅカと表示されている。
シヅカが1パート歌い終わると最後のメンバーが登場する。
位置は左の端に立つ。
名前はサクラ。彼女の歌声はとにかく澄んでいた。透明度でいったら五人の中で一番だろう。
サクラが1パート歌い終えたところで、今度はメンバー全員でハーモニーを奏で始める。
それまで強烈に流れていたBGMはフェードアウトし、五人の歌声だけが館内に響き渡る。
そのパフォーマンスはとんでもないものであった。
五人の並びも変化して、円を描くように立っている。
映像は彼女達の姿を映しているが、ゆっくりと回転しながら円を描く位置を保ちつつ、振り付けを入れていく。彼女たちの声がドームの中に広がってゆく。
なんと表現すればいいのだろうか。
世界が、空気が、景色が、すべて美しい。
五人のまったく異なった個性を持った歌声が、一つのハーモニーを奏でる時、これほどのものとなることを誰が予想できたのだろう。
俺は自分の手の甲に水滴が落ちるのを感じた。
それは汗だった。自分がこの歌声にどれほどの高揚を覚えているのか、不覚にもそれで初めて気がついた。
俺には分かる。観客の全員が思っていることが。
づっとづっといつまでもこの歌声を聞いていたい。
その思い。俺も同じだから。
だが、現実はいきなりその姿を見せる。
ワルキューレ☆ハートの五人を照らしていたライトが突然消える。
観客全員を魅了していた歌声も消えた。




