第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 19 - 観客席
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 19 - 観客席
「いや、それはあいつの役目さ。俺がやるのは彼女らが活躍するための環境を整えるだけのことさ」
あいつとはもちろんリミィのことである。
「信じてるんだな」
俺が言うと、カージはなんとなく照れたような笑みを浮かべる。
「ああ、少なくとも、俺自身よりはよっぽど信用できるからな」
やはり、カージも試合前に気分が高揚しているのだろう。普段ならけして言わないようなセリフを言った。
そのことにカージはすぐに気づいて。
「すまん、今のセリフはあいつには内緒にしておいてくれ」
若干気恥ずかしそうにそんなことを言ってきた。
「そこは男同士、信用してくれ」
日本には武士の情けという言葉がある。今の会話はちょうどそれに当たる。
「すまんな」
カージが短く礼を言った。
「気にするな」
俺も短く答えた。
俺と斉藤、そしてカージの男三人は観客席に向かう。
観客席の中には関係者エリアが設けられていて、その場所に行くためだ。
これは、関係者を特別扱いするというより、このエリア内の人間を勝敗を決するための集計から外すことが目的であった。
つまり本大会中、出場する全アイドル・ユニットのスタッフは、このエリア内に留まることが義務付けられている。
エリアはごく簡単な魔法結界によって仕切られており、足を踏み入れた瞬間を感覚的に分かるようになっている。
例えれば水の中に入っていくような感覚だろうか。
ただ、それを感じるのは通り過ぎる瞬間だけで、その後はいつもと変わらない。
会場は全席指定席となっているので、俺と斉藤、カージの席も決められている。
ただ、トレーナーはセコンド席が客席とは別の場所に用意されていて、出場するアイドルと常にコンタクトが取れるようになっていた。
全て指定席としている理由は、得点集計に関係しているというだけでなく、多種族の来場者があるためそれに応じた席を準備しなくてはならないという理由も大きかった。
俺が席に着くと、俺の席の正面には魔法制御卓が展開される。
一般客の物とは若干違うが、ほぼ機能としては同じものである。
役割としてはインフォメーションがほとんどであり、映し出された映像から詳しい情報を検索して正面に見えている画像に重ねることが可能となっていた。
情報端末でも似たようなことは出来るが、ライブ感覚を損なうことなく必要な情報を確認できるということは実に大きな意義を持っている。




