第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 16 - 観客
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 16 - 観客
最終的に斉藤も認める。俺と違って、アイドル達を見てきた斉藤だ。真性のアイドルヲタクとして、実力の見極めはとっくにできているだろう。そのヲタクとしても認めざるを得なかった。そういうことである。
「さて、戻るか」
俺が促すように言うと、斉藤も頷いた。
開場したとたん、観客席には一気に人が雪崩込んでいる。
会場から静けさはすでに失われて喧騒に包まれていた。
いよいよこれから、四年に一度のとてつもない規模の祭りが開かれる。
この闘いで、十三万千七十二の異世界が参加したアイドル達の闘い。ついにその中の頂点が決まるのだ。
十三万千七十二という数字も、一つ一つがその異世界に存在するアイドル達の代表であることを考えると、本当に星の数ほどのアイドルの頂点ということになる。
クイーンとなるのはその中のたった一つのユニットのみ。
想像するまでもなく、この闘いがいかに熾烈なものであるのかは容易に理解できることだ。
この巨大なドームを埋め尽くそうとしている観客はみな一様に、クイーンが誕生する瞬間を見に来ているのだと言っても過言ではない。
だが、観客一人一人の思いは様々だ。
応援するアイドルユニットがいるヲタもいるだろう、だがそうでない者の数のほうが圧倒的に多い。
実際のところ、この会場に入場出来るのは、チケット購入希望者の中からランダムに選ばれた、ごく一部の限られた存在である。
今日これから決勝を闘うアイドルユニットは、そんな観客の心を掴まなくてはならない。
これから始まる闘いで、各アイドルユニットが前にするのは自分たちのファンではない観客なのである。
全ては公正な闘いを担保するためのものだった。
だが、そんなことは瑣末なことだ。
誰のファンかどうかなど関係ない。パフォーマンスによって最も会場の観客の心を掴んだ者が勝者となる。
魔法技術によって作り出されたハートセンサーが、此処の観客の心の動きを数字化して集計する。
そこには、個々の思惑なんて関係ない。
その瞬間におけるパフォーマンスによって、観客の心を掴んだユニットが勝者となる。それだけのことだった。
つまり、誰のファンであるかなんて関係ないのである。
逆に言えば、この闘いにおいて出場するアイドル・ユニットがするべきことは一つしかないということになる。
自分自身のパフォーマンスに磨きを掛けること。




