第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 06 - サリィの不安
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 06 - サリィの不安
「ちゃんと声は出るようだな。安心したよ」
俺は手をどけ、ここで初めてサリィに話しかける。
すると、サリィは俺の顔を下の方からじっと見上げてくる。
目にはなぜか涙が溜まっていた。
「うーっ。からかわないで下さい!」
子犬がうなるような感じで、サリィは俺に向かって苦情を訴えかける。
「なぁ、サリィ。一つ聞いてもいいか?」
俺はサリィとの間を詰めて、肩に手を掛けるとジェスチャーで座るように促しながらゆっくりと腰を降ろしてゆく。
サリィもそれに合わせて一緒に床の上に座った。
「はい?」
俺の質問の意味が分からないと言った感じでサリィは答えたが、俺は了承したと受け取って勝手に質問を始める。
「君はなぜ、アイドルになろうと思った?」
今更それを聞くか、という感じの質問だった。
だが、俺は今このタイミングだからこその質問だと思っている。
「なりたかったから」
それに対してサリィは即答してきた。
元々そこに用意していた物を、手にとって渡してきただけ。そんな答えであった。
「そうじゃない、きっかけの話しだ。動機と言ってもいいか。君はアイドルになろうとしただけじゃない、並大抵じゃない努力をしてレッスンを続けてきたことを俺は知っている。それを支えている物はなんなのかを聞かせて欲しい」
俺が知る限りにおいて、サリィがレッスンにおいて愚痴を漏らしたというような話しを聞いたことがない。
メンバーの中で一番小さなサリィが、一番必死で頑張っている。俺の目にはそう映っていた。
質問した俺に、サリィは体重を預けてくる。
サリィの体は小さく震えていた。
「あたし子供の頃、ワルキューレ☆ハートのコンサートを見たことあるの。あたしの周り中すっごく沢山の人がいて、みんなが五人の女の人たちを応援していた。応援された女の人は彼らの声援を受けると、もっとずっとキラキラと輝きを増していった。あたしも、そうなりたいって思った。たぶん、それがきっかけだと思う」
瞳を閉じて自分の中の何かを探るってでもいるかのようにサリィは答えた。
「君は今から光の中に立つ。君の中にある、ワルキューレ☆ハートを超えるだけじゃない、全てのアイドルを超えて頂点に立つんだ。やれとは言わない。ただ俺は信じている、君たちなら出来るって」
俺は自分の希望を伝える。




