第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 04 - 朝食
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 04 - 朝食
女どもの発する喧騒のお陰で、とても落ち着ける雰囲気とは言いかねたが、少しだけ異世界よりも不思議な空間に感じられた。
もちろん、そんな時間は長続きしない。
すぐにレヴンが入ってきて、続けてシリンも入ってくる。
キッチンの真ん中にはテーブルがあり、椅子が四脚置いてある。
女どもが来る前は、俺が一人で食事をしていた場所だった。
「適当に座ってくれ」
俺が言うと、シリンとレヴンはテーブルの対角線になる位置に座った。
たぶんそうなるだろうな、とは予想していたが、同じアイドル・ユニットのメンバーになっても二人の距離が縮まっているわけではないらしい。
俺はかまわず給仕をする。
二人の目の前に朝食を並べ終わると、二人揃って俺の方を見た。
どうやら、俺のことを気にかけているらしい。
「俺は後で食べる。先に食べろ」
俺が言うと二人はようやく箸を手に取った。
シリンはもうだいぶ箸の使い方に慣れてきたが、レヴンの方はだいぶ危なっかしい。
俺はその様子を見ながら、二人にお茶を入れてやる。
すると、急にシリンが聞いてくる。
「もしかして、今朝のこれはあんたが作ったの?」
シリンには言ってなかったはずなのだが。
「ほう? どうしてだ?」
俺は興味深そうに聞くと。
「いつもと少し味が違うから。なんというか……懐かしい感じ? かな?」
驚いたことに、シリンはそんな答えを聞かせてくれる。
チロに料理を仕込んだのは俺だ、だが味の方は自分の色に変わっているのだろう。
むしろ俺が驚いたのは、そんな微妙な違いにシリンが気づいたということである。
今シリンは神経が研ぎ澄まされているのかも知れない。
「ふん、そんなことなんて、わたくにしも分かっていましたわ。自慢げにおっしゃるようなことではありません」
黙っていられなくなったようで、レヴンが話しに割り込んでくる。
「はんっ」
一方シリンは軽く鼻で笑った。
これは一番ムカつくやつだ。
俺はレヴンが反撃に出る前に介入する。
「今日はお前らにとって運命の一日になる」
俺のその一言で、シリンもレヴンも顔つきが一瞬で変わった。
「俺にはお前らのためにできることは何もない。そして、今日までお前らが限界を超えて頑張って来たことは知っている。だが、それでも言うぞ、頑張れ。お前らならかならずクイーンを取れる。だから、頑張れ」
俺の言葉をどう受け止めるのかは彼女達次第だ。
しょせん俺は外野であって、舞台に立つのはアイドル本人である。
彼女達自身が自分の力で立ち闘うしかない。
二人は黙々と朝食を食べ終え、俺が教えたごちそうさまをすませると、立ち上がりそれぞれの準備へと向かっていった。




