第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 03 - キッチン
第07話 異世界アイドル選手権 後編 - 03 - キッチン
俺がずっと近くに張り付いて見ていたチロに頼むと。
「はいっ、ご主人さま。でも、わたしの助けは必要なかったみたいですね」
チロが少しばかり哀しそうな感じで言うものだから、俺はチロに軽くキスをしてやった。
一瞬、チロはびっくりしたように固まったが、硬直が溶けるとそれはもういい笑顔になっていた。
まぁ、たまにはこのくらいの褒美を与えるのも良いだろう。
「シリンとレヴンの分は俺が運ぶから、お前は他の連中の分を頼む」
チロに指示を出すと、チロの顔には満面の笑みが浮かんだ。
「はいっ、ご主人さま。任せてくださいっ」
俺はチロの返事を待つことなく、自分の部屋に向かう。
レヴンを起こすためだった。
ちなみに廊下に倒れていたシリンは、寝ぼけ眼で起きてきた誰かに踏まれて犯人探しをやっていた。
もちろん他の連中の反応は、廊下で寝ているやつが悪いというしごくまっとうな意見に集約しつつあるので、犯人が見つかることはおそらくないだろう。
部屋に入ると、すでにレヴンは起きて着替えをすませていた。
もちろん衣装ではなく普段着だが、若干いつもより可愛く見えるのは気の所為だろうか?
「起きたら主さまのお姿なくて、レヴンは寂しゅうございました」
俺の姿を見たレヴンが言ってくる。
俺は一切の言い訳なんてするつもりはないので、その発言に触れることはしない。
「朝食が出来た。お前とシリンの分はキッチンに用意したから準備ができたら来てくれ」
俺はそれだけ言うとすぐにドアを閉めて階段を降りる。
階段を半分と降りないうちに、すぐに部屋のドアが空いて上からレヴンが駆け下りてきた。
「主さま、あの……昨夜は一緒に……」
俺はすぐに振り返ると、言いかけようとしたレヴンの口に人差し指を当てて止める。
「飯が冷める前に食べろ」
それだけ言い、俺は下に降りる。
廊下ではハブられたシリンが地団駄踏んでいた。
「シリン、お前の朝食はキッチンに用意してある。床が抜ける前に食べにこい」
それだけシリンに告げると、俺は先にキッチンへと向かった。
キッチンではチロが、大きな配膳盆に女どもの朝食を乗せて運ぶ所だった。
俺は脇にどけてチロを通してやる。
「ありがとうございます、ご主人さま」
なぜか嬉しそうに礼を言うと、チロはギリギリの所をすれ違っていった。
そのままキッチンに入ると、当然ながら誰もいない空間がそこにあった。




