第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 21 - 決意
第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 21 - 決意
赤い空を見上げるリミィの瞳に映るのは、けして絶望ばかりではなかった。
「それが、カージ……ですか」
俺がつぶやくように言うと、リミィはまっすぐ射抜くように俺の目を見てくる。
「ええそうよ、ナルセくん。でも、それだけじゃない。はちみつパンプキωのメンバー全員とナルセくん、貴方も一緒に同じ夢を追うの。ここに来たのは、あたしの原点をもう一度確認するため。絶対に後には戻れない、その決意をあたし自身が見つめ直すためなの」
話しながらリミィは掌を俺の方へと向けてくる。
「マスター・オブ・クイーン・コンテストで頂点に立つ。星の数ほどもいるアイドルのクイーンとなるのは、気が遠くなるくらい困難な夢だわ。でもね……」
リミィは開いた掌をぎゅっと握りしめる。
「つかめない夢じゃない。あたし達が……はちみつパンプキωが、クイーンになるの!」
決意に満ちた瞳を俺に向けながら、まるで宣言するかのように言い切った。
その瞳には一切迷いというものがない。
思えばそうだった。
あの日、初めてはちみつパンプキωというアイドルユニットに出会ったとき。信じられないくらいポンコツユニットであったにもかかわらず、メンバー全員がクイーンの座を取れると疑わなかった。
これは、よく考えて見れば、ある意味奇跡的なことだ。
成功する人間全員に共通するものがあるとしたら、それは根拠のない自信である。
成功するか失敗するかなんて、結局やってみないと分からない。
でも、やり通す意志と力は、成功するという根拠のない自信からしか生まれないのだ。
たぶん俺と違って、そのことをリミィは見抜いていたのだろう。
そして、リミィははちみつパンプキωのメンバーと同じものを持っている。
自分自身は叶わなかったが、はちみつパンプキωというアイドルユニットを通して叶えるつもりなのだ。
俺は、今始めてリミィという一人の女性と出会う事ができた、そんな気がしていた。
そして、アイドルという名の深淵を覗き込んだような気にもなっていた。
もちろんそんなものは、ほんの片鱗にしか過ぎないのだろうが。
ただ、なんにしろいつまでも此処にいるわけにはいかない。
「なぁ、そろそろ帰らねぇか? 俺さぁ、はちみつパンプキωの練習してること見たいんだけど?」
いいタイミングで斉藤が切り出してくれた。
俺とリミィの会話について来れなくなって、飽きていたのだろう。
理由はどうあれ、今日の斎藤はいい仕事をしてくれる。
「そうね、帰りましょう。もう、過去を振り向く時間はお終いにしないと。前だけを向いて全力で走り続けないと、絶対に届かないわ。クイーンの座に」
リミィは斉藤の意見に同意した。
端末を取り出し操作する。
すると、目の前にゲートが出現する。開かれた先は、あの洋館の中庭だ。
もちろん違法ゲートだが、取り締まられることは絶対にありえない。
この世界のことが明るみに出る。そんなことはルートワース政府が絶対に容認しないだろう。
それにそもそも、誰もその事実を告げるものがいない以上、誰も知りえない。
三人でゲートを通る。
俺は、リミィと斎藤と共にルートワースへと帰還した。
< 後編へ続く >




